【循環器疾患】5択クイズで学ぶ!心膜炎・心筋炎・心筋症・感染性心内膜炎

5択クイズで学ぶ
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心膜炎とか心筋炎とか……
名前が似すぎて、どれがどれだか混乱します!

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確かに、ここはいつも点が伸びにくいところですね。
今回も「解いて覚える」方法で、
心膜炎・心筋炎・心内膜炎の違いをしっかり整理していきましょう!

🔰 この記事について

本記事は、「解いて覚える」をコンセプトに、診療情報管理士の認定試験(基礎・医学編)や医療系国家試験を目指す学習者向けに作成したクイズ形式の教材です。

今回は、以下の疾患について勉強していきます。

  • 急性心膜炎
  • 収縮性心膜炎
  • 心タンポナーデ
  • 感染性心内膜炎
  • 急性心筋炎
  • 心筋症(肥大型・拡張型・拘束型)
    (診療情報管理士 基礎・医学編 8章 臨床医学各論Ⅴ)

📝 おすすめの学習方法

本記事は、5択クイズ+丁寧な解説を組み合わせ、短時間で効率よく学べる構成になっています。

学習ステップは以下のとおり👇

  1. まずは 5択クイズ に挑戦して理解度をチェック
  2. 解答・解説 を読みながら正しい知識を確認
  3. 要点まとめ解説 で知識を整理
  4. もう一度クイズにチャレンジし、知識を定着

💡 学習のポイント

  • 最初にクイズに挑戦することで出題のポイントが明確になり、効率的に勉強できます。
  • 診療情報管理士だけでなく、理学療法士・作業療法士・看護師・柔整師・鍼灸師など 幅広い医療系国家試験の受験生 にとっても短時間で復習できる記事となっています。

📄 PDFダウンロード対応
印刷しての復習はもちろん、講師の方が授業資料小テスト用としてもご利用いただけます。
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✏️ 5択クイズに挑戦!心膜・心筋・心内膜の疾患をチェック

問1:急性心膜炎について、正しい記述はどれか。

  1. 細菌感染によるものが最も多い。
  2. ST低下がみられる。
  3. 胸痛は前屈みで増悪する。
  4. 心タンポナーデの原因となる。
  5. 心膜叩打音が特徴的である。
解答

 正しい記述は、4 です。

解説
  1. 誤り。急性心膜炎の原因で最も多いのは ウイルス感染(特にコクサッキーウイルスなど)です。
    ただし、ウイルスの同定が困難な場合が多く、臨床的には「特発性心膜炎」とされることが多いです。
  2. 誤り。急性心膜炎では、複数の誘導で広範囲のST上昇がみられます。
  3. 誤り。急性心膜炎では前屈位で心臓への圧迫が減るため、胸痛が軽快します。
    逆に仰臥位では増悪します。
  4. 正しい。心膜の炎症により滲出性心嚢液貯留し、心タンポナーデを起こすことがあります。
  5. 誤り。急性心膜炎では、特徴的に心膜摩擦音が聴取されます。
    心膜叩打音は、収縮性心膜炎の所見です。
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問2:収縮性心膜炎について、正しい記述はどれか。

  1. かぜ様症状などの前駆症状がみられることが多い。
  2. 左心不全が主体となる。
  3. 心臓カテーテル検査では、dip and plateau がみられる。
  4. オスラー結節やロス斑が特徴的所見である。
  5. 自然軽快することが多い。
解答

 正しい記述は、3 です。

解説
  1. 誤り。かぜ様症状などの前駆症状がみられることが多いのは、急性心筋炎です。
    収縮性心膜炎は慢性経過で進行するため、前駆症状はほとんどみられません。
  2. 誤り。収縮性心膜炎では、心膜が線維化・石灰化して硬くなり心室拡張が制限されます。
    その結果、右心系のうっ血(頸静脈怒張・浮腫・腹水など)が主体となり、左心不全よりも右心不全症状が目立つのが特徴です。
  3. 正しい。心臓カテーテル検査では、拡張早期に急激に圧が上昇し、その後一定となる特徴的な波形(dip and plateau)がみられます。
    これは、拡張初期に血液が一気に流入するものの、硬い心膜によってすぐに拡張が制限されるためです。
  4. 誤り。オスラー結節やロス斑(ロート斑)は、感染性心内膜炎にみられる末梢塞栓所見です。
    収縮性心膜炎とは無関係です。
  5. 誤り。収縮性心膜炎は自然軽快しません。
    治療は、硬くなった心膜を外科的に剥離する心膜剥皮術(pericardiectomy)が行われます。
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問3:心タンポナーデについて、正しいのはどれか。

  1. 心室拡張障害をおこす。
  2. 血圧上昇、静脈圧低下、心音減弱がみられる。
  3. 聴診で心膜摩擦音が聴取される。
  4. 原則的に保存療法で経過をみる。
  5. 心嚢穿刺は禁忌である。
解答

 正しい記述は、1 です。

解説
  1. 正しい。心タンポナーデは、心嚢内に液体(心嚢液・血液など)が急速に貯留することで、心臓が外側から圧迫され、心室の拡張が妨げられる病態(拡張障害)です。
    その結果、心拍出量が低下し、ショックに至ることもあります。
  2. 誤り。心タンポナーデでは、静脈圧上昇(頸静脈怒張)血圧低下(心拍出量の減少)、心音減弱(心嚢液が音を遮る)がみられます。
    これら3つの所見は、Beck(ベック)の三徴として知られます。
  3. 誤り。心膜摩擦音は、急性心膜炎に特徴的な所見です。
    心タンポナーデでは、心膜同士の擦れが少ないため聴取されません
  4. 誤り。心タンポナーデは循環動態が急速に悪化する緊急疾患です。
    保存的に経過を見るのではなく、速やかな減圧(穿刺・ドレナージ)が必要です。
  5. 誤り。心嚢穿刺は、心タンポナーデの第一選択の治療法です。
    禁忌ではなく、生命救命のための必須処置です。
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問4:感染性心内膜炎について、誤っているのはどれか。

  1. 歯科治療が誘因となる。
  2. 弁膜症や先天性心疾患で起こりやすい。
  3. 無症状で進行することが多い。
  4. 脳塞栓のリスクがある。
  5. 新たに心雑音が出現する。
解答

 誤っている記述は、3 です。

解説
  1. 正しい。感染性心内膜炎は、歯科治療抜歯などを契機に、口腔内常在菌(特に緑色連鎖球菌)が血流に侵入し、心臓弁心内膜の損傷部位に付着して増殖することで発症します。
  2. 正しい。弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症など)や先天性心疾患(VSD、PDAなど)では、乱流によって内膜が傷つきやすく、そこに菌が付着して感染性心内膜炎を起こしやすくなります。
  3. 誤り。感染性心内膜炎では、発熱がほぼ必発です。
    他にも、倦怠感、食欲低下、体重減少などの全身症状を伴います。
  4. 正しい。弁膜上に形成された疣贅(ゆうぜい:細菌とフィブリンの塊)が血流に乗って飛散すると、脳動脈塞栓をはじめ、腎梗塞・脾梗塞・肺塞栓などの塞栓症を起こします。
  5. 正しい。感染が進行すると、疣贅による弁の破壊や穿孔が生じ、逆流性の新しい心雑音が聴取されることがあります。
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問5:急性心筋炎でみられないのはどれか。

  1. かぜ様の前駆症状
  2. 奇脈
  3. ST上昇
  4. 血清CK値の上昇
  5. トロポニンTの上昇
解答

 急性心筋炎でみられないのは、2 です。

解説
  1. みられる。急性心筋炎は、多くがウイルス感染(コクサッキーウイルスなど)によって起こります。
    発症前
    に発熱、咽頭痛、全身倦怠感など、かぜ様の前駆症状を認めることが多いです。
  2. みられない。奇脈は「吸気時に収縮期血圧が10 mmHg以上低下し、脈が触れにくくなる」現象で、典型的には心タンポナーデや収縮性心膜炎でみられる所見です。
    心筋炎では起こりません。
  3. みられる。心筋障害により、心電図上でST上昇やST低下、陰性T波などのST-T変化を呈します。一見すると心筋梗塞に似た所見を示すこともあります。
  4. みられる。心筋細胞の壊死・障害により、クレアチンキナーゼ(CK)AST、LDHなどの心筋酵素が上昇します。
  5. みられる。心筋細胞の障害によって、細胞内タンパクであるトロポニン(I/T)血中へ放出され、血清濃度が上昇します。トロポニン上昇は心筋障害の鋭敏なマーカーです。
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問6:心筋症について、正しい記述はどれか。

  1. 肥大型心筋症では、左心室の拡大がみられる。
  2. 肥大型心筋症では、左心室流出路狭窄がみられることがある。
  3. 拡張型心筋症では、心エコーで僧帽弁のSAMが確認される。
  4. 拡張型心筋症では、心筋の壁の厚さと収縮力は正常である。
  5. 拘束型心筋症は、心筋症で最も頻度が高い。
解答

 正しい記述は、2 です。

解説
  1. 誤り。肥大型心筋症(HCM)では、心室壁(特に心室中隔や左心室自由壁)が求心性に肥大し、左心室内腔はむしろ狭くなります。
    左心室の拡大がみられるのは拡張型心筋症(DCM)です。
  2. 正しい。HCMでは、非対称性中隔肥大(ASH:asymmetric septal hypertrophy)を示すことが多く、心室中隔が厚くなることで左室流出路狭窄を生じます。
    この狭窄が強い場合、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)と呼ばれます。
  3. 誤り。SAM(systolic anterior motion:僧帽弁の収縮期前方運動)は、HOCMに特徴的な心エコー所見です。
    拡張型心筋症ではみられません。
  4. 誤り。拡張型心筋症(DCM)では、心筋壁が菲薄化し、収縮力が著しく低下します。
    この結果、左心室は拡張し、収縮不全型心不全を呈します。
  5. 誤り。拘束型心筋症(RCM)は、心室の拡張障害を主徴とするまれな心筋症です。
    日本で最も頻度が高い心筋症は、拡張型心筋症(DCM)です。
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問7:心膜や心筋の疾患について、正しい記述はどれか。

  1. 急性心筋炎では、ベックの三徴が特徴的である。
  2. 収縮性心膜炎では、心膜摩擦音が聴取される。
  3. 感染性心内膜炎では、右心不全症状が主体となる。
  4. 急性心筋炎は、急性心筋梗塞に続発することが多い。
  5. 肥大型心筋症では、突然死が起こることがある。
解答

 正しい記述は、 です。

解説
  1. 誤りベックの三徴(血圧低下・頸静脈怒張・心音減弱)は、心タンポナーデでみられる典型的な所見です。
    急性心筋炎では、発熱や全身倦怠感、動悸、胸痛などの症状が主体であり、ベックの三徴はみられません。
  2. 誤り収縮性心膜炎では、線維化・石灰化した心膜により拡張障害が起こります。
    拡張期に硬くなった心膜へ心臓がぶつかることで、心膜叩打音が聴取されます。
    一方、心膜摩擦音急性心膜炎の特徴的所見です。
  3. 誤り感染性心内膜炎では、弁膜上の疣贅形成による弁破壊逆流、および塞栓症状が主な臨床像です。
    感染の好発部位は、左心系弁(僧帽弁・大動脈弁)であり、その結果、右心不全ではなく左心不全症状(呼吸困難・肺うっ血など)が主体となります。
  4. 誤り急性心筋炎の多くはウイルス感染(コクサッキーウイルスなど)が原因です。
    急性心筋梗塞に続発することが多いのは、急性心膜炎です。
  5. 正しい肥大型心筋症(HCM)では、心室中隔の肥厚や左室流出路狭窄を伴い、心室細動心室頻拍などの致死性不整脈が起こることがあります。
    特に若年者運動中突然死の原因として重要です。

🔍 出題ポイントのまとめ|心膜炎・心筋炎・心内膜炎・心筋症を整理

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「心膜炎」や「心内膜炎」「心筋炎」の勉強を始める前に…
心膜・心筋の構造(位置関係)は理解していますか?
忘れてしまった人は、先にこちらの記事で図を確認しておきましょう👇

急性心膜炎(Acute Pericarditis)

概念

  • 心膜(心外膜)に炎症が起こることで生じる疾患です。
  • 胸痛心膜摩擦音・心電図異常(ST上昇)・心嚢液貯留を特徴とします。

原因

  • 多くの場合、ウイルス感染が原因と考えられています。
  • しかし、ウイルスを直接証明するのは難しいため、臨床的には特発性心膜炎と診断されることが多いです。
  • そのほかの原因としては、
    • 細菌感染や真菌感染、結核などの感染症
    • 急性心筋梗塞(心外膜炎として続発することがあります)
    • 尿毒症、がんの転移、外傷、放射線治療後、開心術後、薬剤性 など
      が知られています。

症状

  • 最も特徴的なのは胸痛です。
  • 特に、深呼吸・咳・体を横にしたときなどで痛みが強くなり、座って前かがみになると軽くなるのが特徴です。
  • また、聴診で「ギュッ、ギュッ」という心膜摩擦音を聴取できることがあります。

心電図の変化

  • 心膜炎では、炎症が心臓全体に及ぶため、広範囲のST上昇を認めます。
  • 心筋梗塞のように局所的なST上昇や異常Q波はみられない点が鑑別のポイントです。

予後

  • 多くは2週間以内に自然軽快し、予後は良好です。
  • ただし、再発を繰り返すこともあり、その場合は慢性心膜炎(収縮性心膜炎など)へ移行することもあります。
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急性心膜炎の3大ポイントはこれ👇
胸痛(体位・呼吸で変化)② 心膜摩擦音 ③ びまん性ST上昇

「胸痛+ST上昇」と聞くと心筋梗塞を思い浮かべがちですが、
痛みが体位や呼吸で変化するなら心膜炎を疑いましょう。

収縮性心膜炎(Constrictive Pericarditis)

概念

  • 心膜の炎症が長期間続いた結果、線維化・癒着・石灰化が起こり、心膜が硬くなって心臓の動きを制限してしまう疾患です。
  • 特に心室の拡張が障害されるため、心拍出量の低下全身のうっ血症状(むくみ、腹水など)を引き起こします。

原因

  • かつては結核性が多くみられましたが、現在は減少しています。
  • 現在は原因が特定できない特発性ウイルス性心膜炎の後遺症が多く、そのほか放射線治療後心臓手術後に続発することもあります。

症状

  • 心臓が十分に拡張できないため、右心不全症状が主体です。
    • 頸静脈怒張
    • 腹水貯留
    • 下肢の浮腫
    • 肝腫大
      などが典型的です。
  • 左心不全症状(呼吸困難など)は比較的軽度です。

診断

  • 聴診:拡張早期に「心膜叩打音(pericardial knock)」を聴取します。
    → 硬くなった心膜に心臓がぶつかる音です。
  • 画像検査(心エコー、CT、MRI):心膜の肥厚・石灰化を確認します。
  • 心臓カテーテル検査dip and plateau(ディップ・アンド・プラトー)
  • dip and plateau(ディップ・アンド・プラトー)」は、収縮性心膜炎でみられる右室圧波形の特徴的な形です。
  • 心臓カテーテル検査で測定すると、拡張期の圧が次のように変化します。

波形の意味

  • dip:拡張初期に血液が勢いよく流入するため、圧が一時的に下がる部分。
  • plateau:硬くなった心膜のせいで、これ以上心室が拡張できず、圧が一定になる部分。
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最初はふくらむけど、すぐに外壁(心膜)にぶつかって止まる
という心室の動きを、圧波形がそのまま表しています。

正常右室圧波形と収縮性心膜炎の波形を比較した図。収縮性心膜炎では拡張早期に急な圧下降(dip)がみられ、その後の拡張が制限されて圧が平坦化(plateau)する「dip and plateau」パターンを示す。
右室圧の波形を比較した図
上は正常で、拡張期に圧が緩やかに上昇する。
下は収縮性心膜炎で、拡張早期に急な圧下降(dip)がみられ、その後拡張が制限され圧が平坦化(plateau)する。
心膜の硬化により拡張が制限される状態を示す。

治療

  • 根本的治療は心膜剥離術(pericardiectomy)です。
  • 内科的治療では改善しないため、外科的に硬くなった心膜を除去します。
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収縮性心膜炎で押さえるべきはこの3つです!
拡張障害 ② 心膜叩打音 ③ dip and plateau

心タンポナーデ(Cardiac Tamponade)

概念

  • 心膜腔に液体(心膜液や血液)が急激に貯留し、その圧力によって心臓が外から押しつぶされる病態です。
  • 心室が十分に拡張できなくなり、心拍出量が低下してショック状態となります。

原因

  • 胸部外傷(心臓損傷による出血)
  • 急性心筋梗塞後の心破裂
  • 大動脈解離による出血
  • 悪性腫瘍の心膜転移
  • 心膜炎(心嚢液の貯留)
  • 心臓カテーテル治療やペースメーカー手技による心穿孔

👉 特に医原性・外傷性の原因が近年では多くみられます。

病態

  • 液体が急速にたまると、心膜が伸びる余裕がなく、少量でも心内圧が上昇して心室拡張が障害されます。
  • その結果:
    • 静脈還流障害 → 静脈圧上昇
    • 心室拡張障害 → 心拍出量低下
    • 全身循環低下 → 血圧低下・ショック
      が連鎖的に起こります。

症状・所見

  • 最も有名なのが Beckの三徴 です👇
  • 血圧低下(心拍出量低下)
  • 静脈圧上昇(頸静脈怒張)
  • 心音減弱(心膜液で音が遮られる)
  • その他の特徴として、奇脈(吸気時に脈が触れにくくなる)があります。
  • 吸気時には胸腔内圧が下がり、静脈還流量が増えて右心系が拡張します。
  • しかし心タンポナーデでは、心膜内の圧が高いため心臓全体が十分に拡張できず、右心室が拡張すると、その分左心室が圧迫されて狭くなります。
  • その結果、左室からの拍出量が減少し、脈が弱くなる(奇脈)現象が生じます。
心タンポナーデの病態を示す模式図。心膜腔に液体が貯留して心室の拡張が制限され、静脈還流障害と心拍出量低下を引き起こす。Beckの三徴として心音減弱、頸静脈怒張(静脈圧上昇)、血圧低下が生じることを示す。
図1:心タンポナーデの病態とBeckの三徴
心タンポナーデの病態を示した図。心膜腔に液体や血液が貯留し、心室の拡張障害を引き起こす。
結果として静脈還流が障害され、心拍出量が低下し、Beckの三徴(心音減弱・静脈圧上昇・血圧低下)が出現する。
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診断

  • 心エコー検査が最も有用です。
     👉 心嚢液の貯留と、拡張期の右室虚脱が確認できます。
  • 心電図:低電位、電気的交互脈(心臓の揺れによる波形変化)
  • 心タンポナーデでは、心膜腔に液体(血液や滲出液など)がたまり、心臓を外側から均等に圧迫しています。
  • その中でも右室は壁が薄く、内圧が低いため、最も圧迫の影響を受けやすい部位です。
  • 拡張期には本来、右室が血液を受け入れて大きく広がるはずですが、心膜内圧が上昇していると、右室内圧<心膜内圧 となり、外側から押しつぶされるように右室壁が内側へへこみます。
  • 心エコーでは、拡張早期に右室自由壁が一瞬つぶれるように変形する所見として観察され、これは心タンポナーデを強く示唆する重要所見です。

治療

  • 生命を脅かす緊急状態であるため、ショック状態に陥る前に、速やかな心膜穿刺(ドレナージ)で心嚢液を排出します。
  • 原因が出血であれば外科的修復を行います。
  • 貯留液の原因を特定し(腫瘍性・感染性など)、再発予防を図ります。
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心タンポナーデは命に関わる緊急疾患です。
Beckの三徴
血圧低下・頸静脈怒張(静脈圧↑)・心音減弱
は必ず覚えましょう!

感染性心内膜炎(Infective Endocarditis:IE)

概念

  • 感染性心内膜炎は、心臓の内側(心内膜・弁膜・大血管内面)に感染が起こる疾患です。
  • 心臓弁に細菌などが付着し、疣贅(ゆうぜい:細菌や血栓の塊)が形成されます。
  • これが弁を破壊して弁膜症心不全を引き起こすことがあります。
  • 感染は特に僧帽弁大動脈弁で多くみられます。

原因

  • 歯科治療歯肉炎など、口腔内感染から菌が血中に侵入
  • カテーテル治療・人工弁置換術などの医療処置
  • 弁膜症先天性心疾患をもつ人はリスクが高くなります

➡ 血流中の細菌が弁膜に付着し、疣贅を形成して炎症を起こします。

病態

  • 弁膜上に疣贅(細菌の塊)が形成される。
  • その一部が剝離して血流中を移動する(塞栓源になる)
  • 血管閉塞による塞栓症(脳塞栓・心筋梗塞など)を起こす
  • 弁破壊によって弁膜症や心不全をきたす
感染性心内膜炎の流れを示す図。弁膜上に形成された疣贅が弁破壊や逆流を起こし、剥離すると血流に乗って脳や冠動脈などに塞栓を生じる様子を示す。
図2:感染性心内膜炎の病態
感染性心内膜炎の進展を示した図。弁膜上に疣贅が形成され、弁破壊や弁逆流を起こす。
疣贅が剥離して血流に乗ると、脳や冠動脈などの末梢血管を閉塞し、塞栓症を引き起こす。
Image adapted from Servier Medical Art (https://smart.servier.com), modified by author.

症状

感染症状
  • 細菌感染による全身の炎症反応が中心となり、以下のような症状が出現します。
主な症状解説
発熱(最も多い)90%以上でみられる。
微熱〜高熱まで幅広い
悪寒・倦怠感・食欲低下全身性炎症による
関節痛・筋肉痛免疫複合体の関与
体重減少慢性化例でみられる
末梢血管塞栓・免疫反応による症状
  • 疣贅が剝離して末梢血管を閉塞する、または免疫複合体沈着による炎症が関与します。
症状名特徴意味・覚え方
オスラー結節指先や手掌の有痛性結節免疫複合体による炎症性
ロート斑(Roth斑)網膜出血に白い中心部を伴う眼底出血の一種
爪下線状出血爪の下の線状出血末梢血管の塞栓
点状出血四肢や口腔粘膜に出現毛細血管炎や微小塞栓
心臓への影響
  • 感染が弁を破壊して弁逆流やうっ血性心不全を起こします。
主な症状原因補足
新しい心雑音弁逆流(弁破壊)約80%に出現
息切れ・浮腫・咳うっ血性心不全僧帽弁・大動脈弁感染で多い
突然のショック弁穿孔・腱索断裂急激な逆流による

診断

  • 感染性心内膜炎の診断は、臨床症状に加えて検査所見を総合的に評価して行います。
    • 血液検査:白血球数増加、赤沈・CRP上昇などの炎症反応を認めます。
    • 聴診所見:新たに心雑音(とくに弁逆流音)が出現する場合は、弁破壊を強く疑います。
    • 血液培養:起因菌を同定することで、確定診断に至ります。
    • 心エコー検査:弁膜上の疣贅(vegetation)や弁逆流の有無を確認します。

治療

  • 抗菌薬長期投与(4〜6週間)が基本です。
  • 重篤で致死率の高い疾患であり、弁の破壊や重度心不全では外科的弁置換術を検討します。
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感染性心内膜炎では、まず発熱新しい心雑音に注目します。
原因として歯科治療やカテーテル操作が多く、
診断には血液培養と心エコーが決め手になります。

急性心筋炎(Acute myocarditis)

原因

  • 急性心筋炎の多くはウイルス感染が原因です。
  • 特にコクサッキーBウイルスなどのエンテロウイルスが代表的です。
  • そのほか、細菌・原虫感染、薬物、化学物質、放射線、膠原病などの全身性疾患に伴って起こることもあります。

症状

  • ウイルス感染に続いて、数日〜1週間ほどしてから症状が現れます。
  • 前駆症状:かぜ様症状(発熱、倦怠感、咽頭痛)や消化器症状(下痢、腹痛など)
  • 心症状:息切れ、胸痛、動悸、不整脈
  • 全身症状:発熱、倦怠感
  • 無症状のこともあり、偶然心電図異常から発見される場合もあります。

💡重症例では、心筋収縮障害により急性心不全ショックをきたすことがあります。

診断

  • 血液検査や心電図、心筋逸脱酵素の上昇などから心筋の炎症と障害を確認します。
  • 炎症所見:白血球増加、CRP上昇、赤沈亢進
  • 心電図ST–T変化(上昇,低下,陰性T波)※特徴的所見はない。
  • 血液生化学検査心筋逸脱酵素(CPK、AST、LDH)が上昇
  • 心エコー検査:心室壁運動の低下や心嚢液貯留を確認できることがあります。

👉 「ST変化+心筋逸脱酵素↑」があると心筋梗塞と紛らわしいため、鑑別が重要です。

治療

  • 軽症〜中等症では自然に軽快する例が多いです。
  • 重症例では心不全や不整脈に対する治療を行い、必要に応じてICU管理となります。
  • 心不全治療:利尿薬、ACE阻害薬などで心負荷を軽減
  • 不整脈治療:抗不整脈薬や一時的ペースメーカー
  • 原因治療:ウイルス性では対症療法が中心、膠原病性ではステロイドなど

💡 安静が重要で、心筋への負荷を避けることが回復につながります。

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急性心筋炎はウイルス感染が最多で、かぜ様の前駆症状が特徴です。
ST変化・逸脱酵素上昇がみられ、心筋梗塞との鑑別が重要です。
自然に軽快することも多いですが、重症例では心不全や不整脈に注意。

心筋症(Cardiomyopathy)

概念

  • 心筋症は、心筋そのものの異常によって心臓のポンプ機能が低下する疾患の総称です。
  • 心筋が変性・肥大・線維化などの変化を起こし、収縮や拡張の機能障害を引き起こします。
  • その結果、心不全不整脈突然死の原因となることもあります。

分類

  • 心筋症は、障害される機能や病態の違いにより、次の3つに分類されます。
分類主な特徴ポイント
肥大型心筋症(HCM)心筋が肥大し、拡張しにくくなる左室流出路の狭窄や突然死が問題
拡張型心筋症(DCM)心室が拡張し、収縮力が低下心不全の代表的原因
拘束型心筋症(RCM)心筋が硬くなり、拡張が制限稀だが予後不良
正常心と肥大型心筋症、拡張型心筋症を並べて比較した図。肥大型では心筋壁が厚く、拡張型では心室腔が広く心筋が薄くなっていることを示す。
図3:正常・肥大型・拡張型心筋の比較
心臓の形態を比較した図。
正常心に対し、肥大型では心筋壁が厚くなり、拡張型では心腔が拡大して心筋が菲薄化している。
心筋症の病型による構造的違いを示す。
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肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy:HCM)
病態
  • 心筋(主に左室)が不均一に肥大し、拡張しにくくなる疾患です。
  • 心室の壁が厚くなることで左室の拡張機能が低下し、不整脈や突然死の原因となることがあります。
  • 多くは、心室中隔が特に厚くなる非対称性中隔肥大(ASH)を示します。
  • 心肥大が流出路を狭め、左室流出路狭窄を起こす場合があります。
  • 非対称性中隔肥大(ASH)を示す例のうち、左室流出路の狭窄を伴う型を閉塞性肥大型心筋症(HOCM)とよびます。
  • HOCMでは、僧帽弁の収縮期前方運動(SAM)がみられるのが特徴的です。
  • 僧帽弁が左室流出路の駆出血流に引き込まれる現象です。
  • 心エコーで確認され、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に特徴的な所見とされています。
  • この現象により、左室流出路がさらに狭くなり、心拍出量の低下や雑音の原因となります。
肥大型心筋症(HCM)の断面図。左心室壁と心室中隔が肥厚し、左心室腔が狭くなって拡張障害を起こす様子を示す。流出路狭窄を伴う閉塞型もある。
図4:肥大型心筋症(HCM)の構造変化
肥大型心筋症(HCM)の心臓を示した図。
左心室壁および心室中隔が肥厚し、左心室内腔が狭小化することで拡張障害を引き起こす。
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特徴
  • 約半数の症例で家族内発生(常染色体優性遺伝)を認めます。
  • 主な症状は、労作時の息切れ・胸痛・失神発作・動悸などです。
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(管理人)

肥大型心筋症は、心筋が厚くなって拡張しにくくなる病気です。
中でも閉塞性タイプ(HOCM)では、僧帽弁が前に引き込まれる現象=SAMがポイントです。

拡張型心筋症(Dilated cardiomyopathy:DCM)
病態・症状
  • 心筋の収縮力が低下し、左心室が拡張することで心ポンプ機能が障害される疾患です。
  • 心筋が菲薄化し、収縮できる力が弱まるため、拡張期・収縮期ともに機能が低下します。
  • その結果、うっ血性心不全を呈し、息切れ浮腫などがみられます。
拡張型心筋症(DCM)の断面図。左心室が大きく拡張し、心筋が薄くなって収縮障害を起こす様子を示す。
図5:拡張型心筋症(DCM)の構造変化
拡張型心筋症(DCM)の心臓を示した図。
左心室が拡張し、心筋が菲薄化することで収縮力が低下する。
心拍出量が減少し、心不全を来す機序を示す。
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原因
  • 主な原因としては、ウイルス感染(心筋炎後)自己免疫異常遺伝的要因などが考えられます。
  • 25〜30%は家族性であり、常染色体優性遺伝(顕性遺伝)の形式をとることがあります。
治療
  • 根本的な治療法はなく、心不全の治療(利尿薬、ACE阻害薬、β遮断薬など)やペースメーカー治療が行われます。
  • 重症例では心臓移植の適応となることもあります。
講師<br>(管理人)
講師
(管理人)

拡張型心筋症(DCM)は、心筋が薄くなって収縮できない病気です。
収縮障害によるうっ血性心不全が中心で、
原因はウイルス感染家族性(25〜30%)が代表的です。

拘束型心筋症(RCM)
  • 左室の拡大や肥大はみられないものの、心筋が硬くなることで拡張が制限される疾患です。
  • そのため拡張障害が主体ですが、収縮機能は比較的保たれます。
  • 血液が心室に流入しにくくなるため、左房圧や静脈圧が上昇し、息切れや浮腫などのうっ血性心不全症状を呈します。
  • 原因は不明な場合が多く、アミロイドーシスなどの全身性疾患に伴って発症することもあります。
  • 日本では非常にまれな疾患です。

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(管理人)

急性炎症(多くは治る)を🔵、慢性疾患を🟣、
迅速な治療が必要な緊急疾患を🔴で色分けしました。

急性心膜炎
  • 原因:特発性(ウイルス性)が最多
  • 胸痛:深呼吸・臥位で増悪
  • 聴診:心膜摩擦音
  • 心電図:びまん性ST上昇
収縮性心膜炎
  • 心膜硬化による拡張障害
  • 右心不全症状:浮腫・頸静脈怒張
  • 聴診:心膜叩打音
  • カテーテル検査:dip and plateau
心タンポナーデ
  • 心嚢液貯留による拡張障害
  • ベックの三徴:頸静脈怒張(静脈圧上昇)・血圧低下・心音減弱
  • 奇脈(吸気時に血圧低下)
  • 緊急心嚢穿刺が必要
感染性心内膜炎
  • 誘因:歯科治療など
  • 弁膜に疣贅形成→逆流発生
  • 塞栓症状:オスラー結節・ロート斑など
  • 発熱(ほぼ必発)
  • 新しい心雑音の出現
急性心筋炎
  • 原因:多くはウイルス感染
  • 症状:かぜ様の前駆症状
  • 検査:ST-T変化、心筋逸脱酵素上昇
  • 経過:自然軽快することも
心筋症
  • 肥大型(HCM):心筋壁肥厚→拡張障害
  • 閉塞型(HOCM):僧帽弁のSAM
  • 拡張型(DCM):心筋壁菲薄化→収縮障害
  • 拘束型(RCM):拡張制限型でまれ

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