
「心不全」ってよく聞くけど、
どんな状態なんですか?

(管理人)
心臓のポンプ機能が落ちて、血液を送り出せなくなった状態です。
左心不全と右心不全では、異なる症状が出ます。
今回も「解いて覚える」形式で理解していきましょう!
🔰 この記事について
本記事は、「解いて覚える」をコンセプトに、診療情報管理士の認定試験(基礎・医学編)や医療系国家試験を目指す学習者向けに作成したクイズ形式の教材です。
今回は、以下の疾患について勉強していきます。
📝 おすすめの学習方法
本記事は、5択クイズ+丁寧な解説を組み合わせ、短時間で効率よく学べる構成になっています。
学習ステップは以下のとおり👇
💡 学習のポイント
- 最初にクイズに挑戦することで出題のポイントが明確になり、効率的に勉強できます。
- 診療情報管理士だけでなく、理学療法士・作業療法士・看護師・柔整師・鍼灸師など 幅広い医療系国家試験の受験生 にとっても短時間で復習できる記事となっています。
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✏️ 5択クイズに挑戦!心不全と肺塞栓症・肺性心・肺高血圧症
問1:心不全について、正しい記述はどれか。
- 心疾患による循環不全である。
- BNPの上昇がみられる。
- 胸部X線で心陰影の縮小がみられる。
- 自覚症状による分類として、Killip分類がある。
- 治療は、手術が基本である。
解答
正しい記述は、2 です。
解説
- 誤り。心不全は「心疾患」だけでなく、肺疾患・高血圧・甲状腺機能異常・糖尿病などさまざまな全身疾患により引き起こされる臨床症候群です。
つまり、心疾患に限られないのがポイントです。 - 正しい。BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)は、心室筋が過度に伸展されたときに分泌されるホルモンです。心不全では心室内圧が上昇し、BNPが増加します。
血中BNP値は、診断・重症度評価・治療効果の判定などに広く用いられます。 - 誤り。心不全では、心筋のリモデリング(構造変化)が進み、心拡大(心陰影の拡大)がみられます。
胸部X線でCTR(心胸郭比)が50%以上に拡大していれば、心拡大と判断されます。 - 誤り。自覚症状による慢性心不全の重症度分類には、NYHA分類(Ⅰ〜Ⅳ度)が用いられます。
一方、Killip分類は急性心筋梗塞に伴う急性心不全の重症度分類です。 - 誤り。心不全の治療は、薬物療法(利尿薬、ACE阻害薬・ARB・ARNi、β遮断薬など)が中心です。
さらに、塩分・水分制限や体重管理などの生活指導も重要です。
手術は、弁膜症や重度の心筋症など原因疾患に応じて行う場合に限られます。
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問2:次のうち、左心不全でみられないのはどれか。
- 乏尿
- 呼吸困難
- カーリー線
- バタフライ陰影
- 中心静脈圧の上昇
解答
左心不全でみられないのは、5 です。
解説
- みられる。左心のポンプ機能が低下すると、心拍出量の減少により腎血流が低下します。
その結果、尿量が減少(乏尿)します。 - みられる。左心不全では左房や肺静脈に血液がうっ滞し、肺うっ血や肺水腫が生じます。
これにより呼吸困難や起坐呼吸が出現します。 - みられる。カーリー線(Kerley線)は、胸部X線でみられる間質性肺水腫の所見です。
肺間質に液体がしみ出すことで、小葉間隔壁が肥厚し、細い水平線状陰影として描出されます。 - みられる。バタフライ陰影(蝶形陰影)は、肺門部を中心に広がる肺胞性肺水腫の陰影です。
重度の左心不全でみられる典型的X線所見です。 - みられない。中心静脈圧の上昇は、右心不全でみられる所見です。
右心のポンプ機能が低下し、全身静脈系に血液がうっ滞することで生じます。
問3:次のうち、右心不全でみられないのはどれか。
- 肺うっ血
- 体重増加
- 肝腫大
- 頸静脈怒張
- 下肢の浮腫
解答
右心不全でみられないのは、1 です。
解説
- みられない。肺うっ血は左心不全でみられる所見です。
左心系の機能低下により血液が肺静脈〜肺毛細血管にうっ滞し、呼吸困難や肺水腫が生じます。
右心不全では、血液のうっ滞は全身静脈系に起こります。 - みられる。右心不全では、静脈系うっ血による浮腫や体液貯留が起こるため、体重が数kg単位で増加することがあります。
心不全の経過観察では、毎日の体重測定が重要な指標となります。 - みられる。右心のポンプ機能が低下すると、肝静脈からの還流が障害され、肝臓にうっ血が生じます。
その結果、肝腫大・圧痛・肝頸静脈逆流現象がみられることがあります。 - みられる。右心不全により、上大静脈から右心房への還流が障害されると、頸静脈が怒張(拡張)します。
臥位や半座位で観察すると、頸静脈の拍動が上方まで明瞭にみえるのが特徴です。 - みられる。右心不全では、体静脈系のうっ血によって全身に浮腫が出現します。
特に重力の影響を受けやすい下肢や腰部に強くみられ、進行すると全身性浮腫(全身の腫脹)に至ることもあります。
問4:肺循環障害について、正しい記述はどれか。
- 肺性心とは、基礎に心疾患があり、結果として肺の機能や構造が障害される疾患である。
- 肺塞栓症は、突然の呼吸困難や胸痛で発症する。
- 肺塞栓症の胸痛は、吸気時に軽快する
- 慢性肺性心では、左心不全となる。
- 慢性肺性心では、下大静脈フィルターが用いられる。
解答
正しい記述は、2 です。
解説
- 誤り。肺性心とは、肺疾患や肺血管疾患によって右心に負荷がかかり、右心不全をきたす状態です。
基礎にあるのは心疾患ではなく肺疾患である点に注意が必要です。 - 正しい。肺塞栓症は、下肢静脈などにできた血栓が肺動脈を閉塞する疾患で、突然の呼吸困難・胸痛・頻脈などで発症します。
とくに長時間の安静や手術後、長距離フライト後などに多くみられます。 - 誤り。肺塞栓症の胸痛は、吸気時に増悪するのが特徴です。
これは、胸膜炎を伴うために吸気で胸膜が引き伸ばされて痛みが強くなるためです。 - 誤り。慢性肺性心では、慢性の肺疾患(例:COPD、間質性肺炎など)により肺動脈圧が上昇し、右心不全を起こします。
- 誤り。下大静脈フィルターは慢性肺性心の治療ではなく、深部静脈血栓症による肺塞栓症の再発予防に使用されます。
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問5:肺塞栓症の原因として、最も適切なものはどれか。
- 肺動脈の奇形
- COPD
- 長時間のフライト
- 睡眠時無呼吸症候群
- 上肢の手術
解答
最も適切なのものは、3 です。
解説
- 誤り。肺動脈の奇形は先天的な構造異常であり、肺塞栓症の原因ではありません。
肺塞栓症は、血栓(主に下肢の深部静脈血栓症:DVT)が肺動脈に流入し、閉塞することで発症します。 - 誤り。COPD(慢性閉塞性肺疾患)は慢性の肺疾患で、長期的には肺高血圧を介して慢性肺性心を引き起こしますが、肺塞栓症の直接的な原因ではありません。
- 正しい。長時間のフライトや長時間の座位(エコノミークラス症候群)では、下肢の血流が停滞し、深部静脈血栓症(DVT)が生じやすくなります。
この血栓が血流に乗って肺動脈を閉塞すると、肺塞栓症を発症します。
手術・長期臥床・妊娠・経口避妊薬の使用なども同様にリスク因子です。 - 誤り。睡眠時無呼吸症候群は、夜間の低酸素血症を繰り返すことで肺血管収縮と肺高血圧をきたし、慢性肺性心の原因になることがあります。
ただし、血栓塞栓による肺塞栓症の原因ではありません。 - 誤り。上肢の手術では肺塞栓症のリスクは低く、むしろ下肢の手術(特に整形外科手術や骨盤手術)の後は、深部静脈血栓(DVT)形成の危険性が非常に高いため注意が必要です。
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問6:特発性肺動脈性肺高血圧症について、正しい記述はどれか。
- 男性に多く発症する。
- 左心系の負荷が増大する。
- 肺血管造影で血栓が認められる。
- 診断には右心カテーテル検査が必須である。
- 肺動脈楔入圧(PAWP)の上昇が認められる。
解答
正しい記述は、4 です。
解説
- 誤り。特発性肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、若年~中年女性に多い疾患です。
- 誤り。本症では、肺動脈の内膜肥厚や収縮などにより肺血管抵抗が上昇し、右心系に負荷がかかります。左心系の負荷増大はみられません。
- 誤り。肺血管造影で血栓が認められるのは、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)です。
特発性PAHでは、器質的な血栓は存在しません。 - 正しい。右心カテーテル検査は、肺高血圧症の確定診断に必須です。肺動脈圧や肺動脈楔入圧(PAWP)を測定し、平均肺動脈圧(mPAP)>20mmHg、PAWP ≤15mmHg(=左心系の関与なし)であれば、肺動脈性肺高血圧症(PAH)と診断します。
- 誤り。PAWP(肺動脈楔入圧)は左心房圧を反映する指標です。
特発性PAHでは左心系に異常がないため、PAWPは正常または低値を示します。
PAWPが上昇するのは、左心不全など左心系疾患に伴う肺高血圧の場合です。
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🔍 出題ポイントのまとめ|心不全と肺塞栓症・肺性心・肺高血圧症
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心不全
概念
- 心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身の臓器が必要とする血液(酸素)を十分に送り出せない状態をいいます。
- つまり「病名」ではなく、心臓の働きが弱くなった結果として起こる病態(症候群)です。
- 多くの場合、血液のうっ滞(うっ血)による症状が主体となるため、うっ血性心不全(congestive heart failure:CHF)とも呼ばれます。

(管理人)
「うっ血」というのは、血液がうまく流れずに滞ってしまうことです。
心臓が押し出す力が弱いから、血流が悪くなってしまうんです。
心不全=血の巡りが悪くなる病態、と覚えてきましょう。
分類
- 心不全は、症状の程度や病態の進行度によっていくつかの方法で分類されます。
- 臨床でよく使われる代表的なものは、以下の2つです。
NYHA分類(New York Heart Association分類)
- 慢性心不全など、自覚症状(疲労・息切れ・動悸など)による日常生活の制限度で評価します。
- 主に外来や慢性期管理で用いられます。
| 分類 | 特徴 |
|---|---|
| Ⅰ度 | 心疾患はあるが、普通の身体活動では症状がない。 |
| Ⅱ度 | 普通の身体活動(坂道・階段など)で症状が出る。 |
| Ⅲ度 | 普通以下の活動(平地歩行など)でも症状が出る。 |
| Ⅳ度 | 安静時にも心不全症状や狭心痛がある。 |
Killip分類(急性心筋梗塞による心不全の重症度分類)
- 急性心筋梗塞に伴う心不全の重症度を4段階で分類します。
- 入院時の評価や予後の指標として重要です。
| 分類 | 特徴 |
|---|---|
| クラスⅠ | 心不全の徴候なし。 |
| クラスⅡ | 軽度〜中等度心不全。 ラ音聴取領域が全肺野の50%未満。 |
| クラスⅢ | 重症心不全(肺水腫)。 ラ音聴取領域が全肺野の50%以上。 |
| クラスⅣ | 心原性ショック。 血圧90mmHg未満、尿量減少、 チアノーゼ、冷汗、意識障害などを伴う。 |
原因
- 心不全は、さまざまな心疾患や全身疾患の結果として起こる病態です。
- 最も多い原因は、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)や弁膜症、高血圧などによる心筋の負担や障害です。
- また、心臓以外の病気でも心不全を引き起こすことがあります。
- たとえば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患、糖尿病などの代謝異常、膠原病、抗がん剤などの薬剤性心筋障害などです。
病態
- 心不全では、心臓のポンプ機能低下により、血液の送り出しが不十分になります。
- どちらの心室の機能が障害されるかによって、左心不全と右心不全に分けられます。
- 左心不全では、左心室の拍出量が低下し、肺静脈圧が上昇します。
その結果、肺うっ血が生じ、息切れや起坐呼吸などの呼吸器症状がみられます。 - 右心不全では、右心室の拍出量が低下し、中心静脈圧や体静脈圧が上昇します。
そのため、体静脈うっ血による浮腫や頸静脈怒張、肝腫大などが出現します。
- また、左心不全が進行すると肺高血圧を介して右心に負担がかかり、両心不全に至ることもあります。

左心不全では左室の拍出低下により肺静脈圧が上昇し、肺うっ血を生じる。
一方、右心不全では右室の拍出低下により中心静脈圧や全身の静脈圧が上昇し、体静脈うっ血をきたす。
左心不全が進行して肺高血圧をきたすと、右心不全を生じる。
(看護roo!のフリーイラストを改変して作成)

(管理人)
左心不全では肺に血がたまり(肺うっ血)、
右心不全では全身に血がたまる(全身うっ血)。
👉 左→肺、右→全身 が悪くなる と覚えましょう!
症状
- 心不全の症状は、血液がどこでうっ滞するかによって異なります。
- 左心不全では肺うっ血による呼吸器症状が、右心不全では体静脈うっ血による全身の血流うっ滞症状が主体です。
🩺 左心不全と右心不全の症状
| 分類 | 原因となる病態 | 主な症状・徴候 |
|---|---|---|
| 左心不全 | 左心拍出量の低下 による循環障害 | 動悸、易疲労感、低血圧、冷汗、 チアノーゼ、意識障害(脳虚血)、 乏尿(腎虚血) |
| 肺うっ血 による呼吸障害 | 労作時呼吸困難、起坐呼吸、 発作性夜間呼吸困難、ピンク色泡沫状痰、 断続性ラ音(湿性ラ音) | |
| 右心不全 | 体静脈系うっ血 による静脈還流障害 | 頸静脈怒張、肝腫大、右季肋部痛、 腹水、下腿浮腫、体重増加 など |
検査
- 心不全の診断では、心臓の負担の程度や肺うっ血の有無を確認することが重要です。
- 代表的な検査として、以下が挙げられます。
胸部X線
- 心拡大や肺うっ血、肺水腫の所見を確認します。
カーリー線(Kerley B線)
肺のすみ(下肺野の外側)に見られる短い水平線。
うっ血によって肺間質に水がしみ出したサインで、間質性肺水腫の初期所見です。
バタフライ陰影(butterfly shadow)
両側肺門部を中心に白く広がる“蝶の羽”のような影。
肺胞性肺水腫の典型像で、うっ血が肺胞まで進行した重症所見です。
心胸郭比(CTR:cardiothoracic ratio)
胸部X線で、心臓の最大横幅(a)と胸郭の最大横幅(b)を測定し、その比率(a/b)を求めます。
心胸郭比=a ÷ b × 100(%)
通常は 50%以下が正常 で、50%を超えると心拡大(心肥大)が疑われます。

胸部X線で、心臓の最大横幅(a)と胸郭の最大横幅(b)を測定し、その比率(a/b)を心胸郭比として算出する。
通常は50%以下が正常で、50%を超えると心拡大が疑われる。
血液検査
- BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド) または NT–proBNP(BNPの前駆体) の上昇がみられます。
- これらは心室から分泌されるホルモンで、心室の負荷(拡張や圧上昇)により血中濃度が上昇します。
- 値が高いほど心不全の重症度が高く、治療効果の判定にも利用されます。
その他の検査
- 聴診:断続性ラ音(湿性ラ音)、心雑音(弁膜症の合併)など
- 心エコー:心室収縮能・弁の異常を評価
- 心電図:虚血性変化、不整脈の有無を確認
- 動脈血ガス分析:低酸素血症や酸塩基平衡の異常を評価

(管理人)
心不全の検査では、BNPの上昇、
肺うっ血所見(カーリー線・バタフライ陰影)、
心胸郭比(CTR)の拡大(50%超)
をしっかり押さえておきましょう!
治療
- 心不全の治療は、原因疾患の治療+心臓への負担軽減を目的とします。
- 基本は薬物療法で、重症例では外科的治療も考慮されます。
薬物療法
- 利尿薬:体内の余分な水分を排出し、肺うっ血・浮腫を軽減
- 強心薬(ジギタリスなど):心筋の収縮力を高め、心拍出量を改善
- ACE阻害薬・ARB:血管拡張作用により後負荷を軽減し、心機能の悪化を防ぐ
- β遮断薬:交感神経の過剰反応を抑え、心筋のリモデリング抑制に有効
その他の治療
- 塩分・水分制限、安静
- 原因疾患(弁膜症・虚血性心疾患など)の治療
- 重症例:人工呼吸管理、補助循環装置(IABP、PCPS)、心臓移植などが検討されます。
肺循環障害
- 肺循環障害は、肺の血管や血流に異常が起こる病気の総称です。
- 血栓などで急に血流が途絶える場合(肺塞栓症)や、慢性的な肺疾患で右心に負担がかかる場合(肺性心)、肺血管そのものが狭くなる場合(特発性肺動脈性肺高血圧症)などがあります。
- これらはいずれも右心の負荷や心不全につながる重要な疾患です。
肺塞栓症(Pulmonary Embolism)
概念
- 静脈内でできた血栓や空気、脂肪、腫瘍片などの塞栓子が血流に乗って肺動脈を閉塞し、肺の血流が途絶えることで低酸素血症を引き起こす病態です。
- 塞栓によって肺動脈が完全に詰まり、その先の肺組織が出血壊死を起こした場合を「肺梗塞」といいます。

下肢の深部静脈に血栓が形成され(深部静脈血栓症:DVT)、
剥離した血栓が血流に乗って右心を経て肺動脈へ到達し、
肺動脈を閉塞して塞栓を起こす。
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原因
- 長期臥床や長時間のフライト(エコノミークラス症候群)などによる深部静脈血栓症(DVT)が最も多い原因です。
- そのほか、肥満・妊娠・経口避妊薬の使用・手術後などもリスク要因になります。
主な症状
- 突然の呼吸困難
- 胸痛(特に吸気時に増悪)
- 頻呼吸、頻脈
- 重症例では失神やショックを起こすこともあります。

(管理人)
肺塞栓症の胸痛は、胸膜が炎症で刺激される「胸膜性胸痛」です。
息を吸うと胸膜が引き伸ばされるため、吸気で痛みが強まります。
診断
- 胸部CT、肺血管造影、肺血流シンチグラフィーなどを行い、血栓の存在や血流障害を確認します。
治療
- 抗凝固療法(ヘパリン・ワルファリンなど)
- 血栓溶解療法(重症例)
- 必要に応じて下大静脈フィルターの留置が検討されます。
- 下大静脈フィルター(IVCフイルター)は、下半身の静脈(特に下肢)でできた血栓が肺に流れ込むのを防ぐための医療器具です。
- 下大静脈(足の静脈から心臓へ向かう大きな静脈)に金属製のフィルター(傘のような形)を留置し、血流は通しつつ、血栓だけを捕まえる仕組みになっています。

下肢で形成された血栓(深部静脈血栓症:DVT)が肺に流れるのを防ぐため、
腎静脈の下部に金属製フィルター(IVCフィルター)を留置する。
血栓は下肢静脈から下大静脈を上行し、フィルターで捕捉される。
肺性心(Cor Pulmonale)
概念
- 肺性心とは、肺血管や肺換気の異常によって肺高血圧を生じ、結果として右心系に負担がかかり、右心不全をきたす病態をいいます。
- 主に慢性的な経過をとるため、一般に「慢性肺性心」を指します。
- 一方で、急性肺性心は比較的まれで、急性肺塞栓症などにより急激に肺動脈圧が上昇した場合に生じます。
- このときは心筋肥大を伴わず、右室の急激な拡張が特徴です。
原因
- 肺性心の原因は、大きく肺血管の障害と換気障害に分けられます。
- これらの疾患では、長期にわたる低酸素血症や肺血管収縮が持続し、最終的に右心負荷を引き起こします。
症状
- 肺性心では、低酸素血症による症状と右心不全による症状がみられます。
| 分類 | 主な症状 | 説明 |
|---|---|---|
| 低酸素血症 による症状 | 労作時呼吸困難 頻呼吸 チアノーゼ ばち状指 | 肺の換気・血流障害により 酸素が不足することで生じる。 |
| 右心不全 による症状 | 頸静脈怒張 肝腫大 下腿浮腫 | 肺高血圧による右心負荷が続き、 右心系のうっ血を反映する。 |

(管理人)
肺性心は、肺の異常が右心に負担をかけて右心不全を起こす病態です。
👉 「肺の障害 → 右心不全」の流れをしっかり押さえておきましょう。
特発性肺動脈性肺高血圧(Idiopathic Pulmonary Arterial Hypertension:IPAH)
概念
- 特発性肺動脈性肺高血圧(IPAH)は、明らかな原因疾患がないにもかかわらず、肺小動脈の内腔が狭くなり、肺動脈圧が上昇する難治性の疾患です。
- 慢性的な肺高血圧により、やがて右心系に負荷がかかり、右心不全へと進展します。
- かつては「原発性肺高血圧症(Primary Pulmonary Hypertension)」と呼ばれていましたが、現在は「特発性肺動脈性肺高血圧」と呼ばれています(WHO分類 Group1 ※に相当)。
頻度
- 比較的まれな疾患ですが、60歳代以下の女性に多い傾向があります。
- 指定難病(No.53)に含まれています。
症状
- 初期は自覚症状が乏しく、労作時呼吸困難や易疲労感などの非特異的な症状から始まります。
- 進行すると、右心不全の症状(チアノーゼ、浮腫、肝腫大など)が出現します。
| 症状の種類 | 代表的な症状 | 機序 |
|---|---|---|
| 初期症状 | 労作時呼吸困難、 胸痛、易疲労感 | 心拍出量低下 による酸素供給不足 |
| 進行期症状 | チアノーゼ、 下腿浮腫、肝腫大 | 右心不全の進行 によるうっ血 |
診断
- 肺動脈圧の上昇を確認するため、右心カテーテル検査(スワン・ガンツ法)が必須です。
- 右心房から肺動脈にカテーテルを進めて、肺動脈圧や肺動脈楔入圧(PAWP)を測定します。
- 楔入圧は左心房圧とほぼ等しいため、左心系の圧を反映します。
- したがって、楔入圧が正常で肺動脈圧だけが高い場合は、左心系の異常による肺高血圧ではなく、肺動脈そのものの異常(肺動脈性肺高血圧)と判断します。
➡ スワン・ガンツ・カテーテルについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
- また、心電図や画像検査でも右心負荷の所見がみられます。
| 検査 | 所見 |
|---|---|
| 心電図 | 右軸偏位、右室肥大の所見 |
| 胸部X線・心エコー | 肺動脈拡張、右心系の拡大 |
| 右心カテーテル (スワン・ガンツ法) | 肺動脈圧↑、肺血管抵抗↑、楔入圧(PAWP)正常 → 肺動脈性肺高血圧と診断 |

(管理人)
IPAHは特徴的な症状に乏しいため、検査がポイントです。
肺血管の異常や右心系の異常で診断されます。
治療
- 根治は難しいものの、肺血管を拡張し右心負荷を軽減する薬物療法が中心です。
- 重症例では、肺移植が検討されることもあります。
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※ 記事作成には正確を期しておりますが、内容に誤りや改善点がございましたら、お知らせいただけますと幸いです。今後の教材作成の参考にさせていただきます。
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この記事の5択クイズを、印刷しやすいPDFにまとめました。
“heart-failure-pulmonary-embolism” をダウンロード heart-failure-pulmonary-embolism.pdf – 4 回のダウンロード – 639.65 KB🔗 循環器疾患の学習に役立つ関連記事
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