人畜共通感染症(人獣共通感染症)

4章 感染症

人畜共通感染症(人獣共通感染症)のうち、ペスト、野兎病、ブルセラ症、炭疽、リステリア症からの問題を出題しています。

問題

問1:ペストについて正しいのはどれか。

  1. 感染症法では、2類感染症に指定されている。
  2. ペスト菌は、主に鳥類が保有している。
  3. ペスト菌は、シラミによって媒介される。
  4. ペスト菌は、グラム陰性桿菌である。
  5. 死亡率は低く、自然治癒する。
解答

 正しい記述は、4 です。

解説
  1. ペストは、感染症法1類感染症に指定されています。
  2. ペスト菌は、主にげっ歯類(ネズミなど)が保有しています。
  3. ペストのうち腺ペストは、ペスト菌を保有するネズミについたノミによって媒介されます。シラミが媒介する疾患には、発疹チフス回帰熱などがあります。
  4. 正しい記述です。
  5. ペストの死亡率は非常に高く、未治療の場合致死的となります。

問2:正しいのはどれか。

  1. ペストは、抗酸菌による感染症である。
  2. 炭疽菌は、芽胞形成菌である。
  3. ブルセラ症では、稽留熱がみられる
  4. 野兎病は、主に飛沫感染する。
  5. リステリア症の原因菌は、食品の低温保存で予防可能である。
解答

 正しい記述は、2 です。

解説
  1. ペストは抗酸菌ではなく、グラム陰性桿菌であるペスト菌による感染症です。代表的な抗酸菌感染症には、結核ハンセン病非結核性抗酸菌症などがあります。
  2. 正しい記述です。炭疽菌は、通性嫌気性グラム陽性有芽胞桿菌で、熱や乾燥に強い芽胞を形成し、土壌中に長期間生存します。
  3. ブルセラ症では、有熱期無熱期不規則に繰り返される波状熱がみられます。稽留熱は、1日の変動が1℃以内で38℃以上の高熱が持続するもので、腸チフス、髄膜炎、肺炎などでみられます。
    ※ 熱型については、食中毒の記事を参照してください。
  4. 野兎病は、主に保菌動物との接触感染により感染します。通常、ヒトからヒトへの感染はありません。
  5. リステリア症の原因菌であるリステリア菌は、4℃以下の低温でも増殖可能であるため、低温保存した食品も感染源となる可能性があります。

問3:正しいのはどれか。

  1. ペストは、ヒトからヒトに感染しない。
  2. 炭疽菌の吸入による肺炭疽は、致死率が低く予後良好である。
  3. 炭疽では、高圧酸素療法を行う。
  4. ブルセラ症では、黄疸と出血が主な症状である。
  5. リステリア症は、垂直感染する。
解答

 正しい記述は、5です。

解説
  1. ペストのうち、肺ペスト飛沫感染するためヒトからヒトに感染します(腺ペストからの続発もあります)。
  2. 肺炭疽は未治療の場合、致死率が90%以上で最も重症な病型です。
  3. 炭疽菌は通性嫌気性菌(酸素があってもなくても増殖する)ですので、高圧酸素療法は有効ではありません。高圧酸素療法は、ガス壊疽など嫌気性菌による感染症に対して有効です。
  4. ブルセラ症の主な症状は、発熱波状熱)や関節痛などです。黄疸出血が主症状としてみられる感染症には、ワイル病黄疸出血性レプトスピラ症)があります。
  5. 正しい記述です。リステリア症は、妊婦が感染すると胎盤を介して胎児垂直感染をおこし、流産早産、新生児敗血症などの原因となります。

ポイント

人畜共通感染症(人獣共通感染症)

  • ヒトにも家畜にも感染する感染症を人畜共通感染症(人獣共通感染症)といいます。
  • 代表的な人畜共通感染症(人獣共通感染症)には、以下のような疾患があります。

ペスト

  • ペストはグラム陰性桿菌であるペスト菌の感染症で、感染症法では1類感染症に指定されており、致死率が非常に高い疾患です。
  • ペストのほとんどは腺ペスト(90%)で、その他敗血症ペスト(10%)や肺ペスト(稀)があります。
  • ペスト菌はネズミなどのげっ歯類が保有しており、ノミを介してヒトに感染し腺ペストを引き起こします。
  • 腺ペストでは、リンパ節腫脹、発熱、頭痛、悪寒などの全身症状がみられます。
  • 腺ペストは中世ヨーロッパで大流行し、人口の4分の1〜3分の1が死亡したといわれています。
  • 肺ペストは肺ペスト患者からの飛沫感染により感染し、肺炎などをおこしますが、未治療の場合致死率は90%以上といわれます。

敗血症

  • 敗血症は、病原体の種類によらず(細菌が多い)、感染症が原因となり重篤な臓器障害が引き起こされた状態です。
  • 菌が血液中に侵入した状態をいう菌血症とは異なりますが、菌血症が敗血症の原因となることがあります。
  • 敗血症は、感染症による全身性炎症反応症候群(SIRS)です。

全身性炎症反応症候群(SIRS)

  • SIRSとは、手術や外傷、感染など、生体に何らかの大きな侵襲が加わった際に、免疫細胞が大量のサイトカインを産生し、肺や腎臓、肝臓などの重要な臓器が障害されてしまう状態です。

    主に免疫細胞が産生する生理活性物質の総称で、インターフェロンやインターロイキンなど様々な種類があります。他の免疫細胞の活性化や増殖、炎症反応の誘発や抑制などに関与しています。

炭疽

  • 炭疽はグラム陽性通性嫌気性有芽胞桿菌である炭疽菌による感染症であり、感染症法では4類感染症に指定されています。
  • 炭疽菌は乾燥に強い芽胞を形成し、土壌中などで長期間生存して動物に感染し、動物の体内で発芽増殖します。
  • 2001年には、アメリカで炭疽菌の芽胞が生物テロに使用された事件がありました。
  • 経皮感染により皮膚炭疽を、経口感染により腸炭疽を、吸入感染により肺炭疽を引きおこします。
  • 肺炭疽は、未治療の場合致命率が90%以上となり、最も重症です。

ブルセラ症

  • ブルセラ症はブルセラ属菌による感染症で、感染症法では4類感染症に指定されています。
  • ブルセラ属菌はグラム陰性偏性好気性桿菌で、細胞内寄生性をもちます。
    ※ 偏性好気性菌:酸素がないと増殖できない菌。
    ※ 細胞内寄生性:宿主の細胞内で増殖する性質。
  • ブルセラ菌に感染した動物由来の乳製品経口感染が原因となりますが、国内での家畜の感染は報告されていません。
  • 特徴的な症状として波状熱、間欠熱がありますが、その他倦怠感や頭痛、関節痛など他の熱性疾患と類似した症状がみられます。

野兎病

  • グラム陰性桿菌である野兎病菌による感染症で、保菌動物との直接または間接的な接触により感染します。
  • 通常、ヒトからヒトへの感染はありません。
  • 発熱や悪寒、頭痛、筋肉痛など感冒様症状で発症し、リンパ節腫脹皮膚症状など侵入経路によって様々な病型を示します。

リステリア症

  • グラム陽性通性嫌気性桿菌であるリステリア・モノサイトゲネスによる感染症です。
  • リステリア菌は、河川や動物の腸管内など自然界に広く存在する菌で、4℃以下の低温環境でも増殖可能です。
  • 生ハムなどの食肉加工品やナチュラルチーズなどが原因食品となります。
  • 健康な成人であれば感染しても発症しないか軽症で済みますが、妊婦高齢者免疫低下患者の場合は注意が必要です。
  • 発熱、筋肉痛などインフルエンザ類似症状のほか、嘔吐や下痢などがみられますが、重篤の場合、菌血症髄膜炎をひきおこします。
  • 妊婦に感染すると流産早産死産の原因となったり、胎盤を介して胎児に感染し、新生児リステリア症を引きおこします。

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