今回は、性感染症である梅毒、淋病、クラミジア感染症、トリコモナス症、軟性下疳からの出題です。
問題
問1:梅毒について、正しいのはどれか。
- 原虫の一種である梅毒トレポネーマによる感染症である。
- 垂直感染しない。
- 第1期の症状として、軟性下疳がある。
- 3~6週間後に、脊髄癆などの神経梅毒が出現する。
- 梅毒血清反応には、TPHA法やSTS法がある。
解答
正しい記述は、5 です。
解説
- 梅毒は、スピロヘータ(らせん形の細菌)の一種である梅毒トレポネーマによる感染症です。
- 梅毒の感染経路は、性感染の他、垂直感染があります。妊婦が感染すると胎盤を介して胎児に感染し、先天梅毒を起こします。
- 梅毒の症状は第1期〜第4期に分けられます。第1期にみられる症状は、軟性下疳ではなく、硬性下疳という症状です。第1期には、外陰部に初期硬結という硬いしこりのようなものが現れますが、その部位にできた浅い潰瘍を硬性下疳といいます。
軟性下疳は、軟性下疳菌の性感染によって起こる疾患で、性器に豆粒大のコブができ、それが潰れて潰瘍ができるなどの症状がみられます。 - 梅毒の第4期の症状として、進行麻痺や脊髄瘻などの神経梅毒があります。進行麻痺は脳実質の広範な障害により、認知機能障害や精神障害などをきたすもので、脊髄瘻は、進行性の脊髄変性により運動障害や感覚障害が出現するものです。神経梅毒の症状は、感染から約10年ほどして出現します(現在は、第3期以降の症状はほとんどみられません)。
- 正しい記述です。梅毒血清反応は、梅毒への感染により産生された血清中の抗体の有無を確認する検査です。非特異的な脂質抗原を用いるSTS法や梅毒トレポネーマの菌体成分を用いるTPHA法などがあります。
問2:性感染症について、正しいのはどれか。
- 淋病の病原体は、ウイルスである。
- 性器クラミジア感染症では、不顕性感染は少ない。
- トリコモナス症は、女性のみに症状がでる。
- 梅毒は、性器以外にも皮膚、内臓、中枢神経、心臓血管系にも症状を起こす。
- 軟性下疳の病原体は、原虫である。
解答
正しい記述は、4 です。
解説
- 淋病の病原体はウイルスではなく、細菌です。グラム陰性双球菌(球形の細菌が2個ずつ対になってつながっている菌)である淋菌の性感染症です。
- 性器クラミジア感染症は、不顕性感染(症状が出ない感染)が多いです。自覚症状に乏しいため、感染が拡大しやすくなります。
- トリコモナス症は、男性の場合、排尿によって排出されるため、感染しても無症状のことが多いです。ただし、女性のみに症状がでるわけではなく、男性でも尿道炎を起こすことがあります。尿道炎症状として、排尿痛や頻尿、尿道からの分泌物の排出がありますが、軽症のことがほとんどです。
- 正しい記述です。第1期には性器周辺の症状がみられますが、第2期には梅毒性バラ疹など全身性の皮膚症状がでてきます。第3期には、肝臓や腎臓などにゴム腫とよばれる炎症性の腫瘤が形成され、第4期には進行麻痺や脊髄瘻などの神経梅毒、大動脈炎や大動脈瘤などの心臓血管系の症状もみられます。
- 軟性下疳の病原体は原虫ではなく、細菌(軟性下疳菌)です。
問3:性感染症について、正しいのはどれか。
- 淋病は、性感染症の中で最も頻度が高い。
- 梅毒は垂直感染により、流産、早産、死産の原因となる。
- トリコモナス症の病原体は、スピロヘータである。
- 軟性下疳の治療に、メトロニダゾールが用いられる。
- 性器クラミジア感染症では、バラ疹などの皮膚症状が特徴的である。
解答
正しい記述は、2 です。
解説
- 性感染症の中で最も頻度が高いのは、性器クラミジア感染症です。その他、頻度が高い性感染症は性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、淋病などです。
- 正しい記述です。妊婦が梅毒に感染すると、胎盤を介して胎児に感染します(経胎盤感染)。死産、流産、早産の原因となりますが、出生した場合、児に先天梅毒を引きおこします。
- トリコモナス症の病原体は、原虫(トリコモナス原虫)です。
- メトロニダゾールは古くから抗原虫薬として使用されてきました。トリコモナス症の治療に用いられます。ただし、嫌気性菌に対する抗菌作用が認められ、現在は様々な嫌気性菌感染症にも用いられています。軟性下疳に対しては、アジスロマイシンなどの抗菌薬が用いられます。
- バラ疹は、梅毒でみられる皮膚症状の一つです(梅毒性バラ疹)。性器クラミジア感染症の症状として、男性では排尿痛、女性では帯下(オリモノ)の異常などがあります(ただし、無症状も多いです)。
ポイント
性感染症(STD:Sexually Transmitted Diseases)
- 性的接触を介して感染する感染症です。
- 病原体が性器、泌尿器、肛門、口腔などの粘膜、皮膚から感染します。
- 代表的な性感染症として、梅毒、淋病、性器クラミジア感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、トリコモナス症、B型肝炎、HIV感染症、性器カンジダなどがあります。
- 現在、最も頻度が高いのは、男女ともに性器クラミジア感染症です。
梅毒
- スピロヘータ(らせん形の細菌)の一種である梅毒トレポネーマによる性感染症です。
- 主に性的接触により感染しますが、垂直感染(経胎盤感染)もあります。
- 垂直感染では、死産や流産、早産、先天梅毒の原因となります。
- 戦後に発生件数が減少したものの、近年は若い人を中心に発生件数が増加し続けています。
- 梅毒の症状は、第1期〜第4期の4つの段階に分けられます(以下の表を参照)。
第1期 | 感染から約3週間後、外陰部に硬いしこり(初期硬結)が出現し、潰瘍化 します(硬性下疳)。 その後、周囲のリンパ節が腫れる無痛性横痃(おうげん)とよばれる症状 が出現します。 いずれも無痛性で、しばらくして消褪します。 |
第2期 | 約3ヶ月後、菌が血行性に全身に波及し全身性の症状が出現します。 梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹、扁平コンジローマなどの皮膚粘膜症状が出現し、 消褪・再発を繰り返します。 |
第3期 | 約3年後、結節性梅毒疹(顔面に多発する赤銅色の結節)や ゴム腫(皮膚や骨、筋肉、肝臓などにできる炎症性肉芽腫)が出現します。 |
第4期 | 約10年後、神経梅毒(脊髄瘻、進行麻痺)や大動脈瘤や大動脈炎などの 末期症状が生じます。 |
- 診断には、血清中の抗体を調べる梅毒血清反応が用いられます。
- 治療には、ペニシリン系の抗菌薬が有効です。
先天梅毒
- 妊娠中の母体が梅毒に感染することにより、胎盤を介して胎児に感染するものです。
- 多くは無症状ですが、発疹や骨軟骨炎、角膜炎、難聴など様々な症状がみられることがあります。
梅毒血清反応
- 梅毒に感染すると、体内で菌に対する抗体が作られますが、その抗体に反応する抗原を用いて血清中の抗体の有無を調べる検査です。
- 抗体と反応させる抗原の違いにより、脂質抗原検査(STS法)と菌由来の抗原を使う方法(TPHA法など)に分けられます。
- 感染初期は脂質抗原(カルジオリピン)に対する抗体が上昇するため、STS法で陽性となりますが、治療により陰性化します。
- その後、菌由来の抗原に対する抗体が上昇するため、TPHA法で陽性となりますが、こちらは治療後も陽性が持続します。
- STS法は、発見者の名前にちなんでワッセルマン反応ともよばれます。
- STS法では、梅毒に感染していないにも関わらず陽性になる(生物学的偽陽性)ことがあります。
- 梅毒感染の既往を確認するにはTPHA法が有効であり、治療効果を知るためにはSTS法が有効です。
淋病
- グラム陰性双球菌である淋菌による性感染症です。
- 男性では尿道炎(尿道不快感や排尿時痛)、女性では子宮頸管炎(膿性帯下の増加)を引き起こします。
- 女性では症状が軽く、放置すると骨盤内炎症性疾患(PID)に発展して不妊の原因となることがあります。
骨盤内炎症性疾患(PID:Pelvic Inflammatory Disease)
- 子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎、骨盤内膿瘍など骨盤内の炎症の総称です。
- 多くは、膣からの上行感染により、子宮頸管炎から波及していきます。
性器クラミジア感染症
- クラミジア・トラコマティスによる性感染症で、性感染症の中で最も多い疾患です(5類感染症)。
- 産道感染による新生児への感染もあります。
- 女性の症状では、漿液性の帯下(オリモノ)の増加や不正出血、痛みなどがありますが、自覚症状がないことが多いです。
- 男性の症状では尿道炎や精巣上体炎を起こしますが、軽症であったり、無症状のことも多いです。
トリコモナス症
- トリコモナス原虫による性感染症です。
- 男性は尿道炎や前立腺炎を起こすこともありますが、無症状のことも多いです。
- 女性では、膣に感染して膣炎(膣トリコモナス)を起こし、外陰部の掻痒感や悪臭を伴う泡沫状の帯下の増加などがみられます。
- 女性でも約半数は無症状ですが、症状は男性よりも強く、症状が出やすい傾向があります。
- 治療には、抗原虫薬であるメトロニダゾールの経口投与が行われます。
軟性下疳
- 軟性下疳菌による性感染症ですが、現在、国内での感染はほとんどみられません。
- 梅毒やHIVとの混合感染もあります。
- 性器に小さな豆粒状のコブができ、それが潰れて有痛性の潰瘍となります。
- 鼠径リンパ節の腫大や圧痛、化膿などがみられます。
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