今回は、猩紅熱、細菌性髄膜炎、ガス壊疽、レジオネラ症、放線菌症、マイコプラズマ肺炎からの出題です。
問題
問1:猩紅熱について、正しいのはどれか。
- インフルエンザ菌による飛沫感染で発症する。
- 高齢者に多く発症する。
- 口腔内病変はみられない。
- CK値の上昇がみられる。
- 合併症として、リウマチ熱がある。
解答
正しい記述は、5 です。
解説
- 猩紅熱は、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による飛沫感染で発症します。インフルエンザ菌は、ヒトの鼻腔内に常在するグラム陰性桿菌です(インフルエンザの病原体ではありません)。
- 溶連菌感染症の好発年齢は、3歳〜10歳(幼児〜学童)です。
- 口腔内病変として、苺舌が特徴的です。
- 猩紅熱では、ASO(抗ストレプトリジンO抗体)値の上昇がみられます。CK(クレアチンキナーゼ)は筋細胞に存在する酵素で、筋細胞壊死の際に血液中に放出される逸脱酵素です。CK値の上昇は、心筋梗塞や筋ジストロフィーなどでみられます。
- 正しい記述です。猩紅熱の合併症として、リウマチ熱や急性糸球体腎炎があります。
問2:正しいのはどれか。
- ガス壊疽は、ウェルシュ菌などが原因となる創傷感染症である。
- 猩紅熱では、ドルーゼがみられる。
- 放線菌症は、主に抗酸菌によって起こる感染症である。
- レジオネラ症は、クラミジア感染症である。
- 細菌性髄膜炎は、ウイルス性髄膜炎よりも軽症のことが多い。
解答
正しい記述は、1 です。
解説
問3:正しいのはどれか。
- 細菌性髄膜炎は、髄膜炎菌の血液感染により発症する。
- レジオネラ症は、ヒトからヒトに感染しない。
- 放線菌症では、感染から1~3週間後に急性糸球体腎炎を起こすことがある。
- マイコプラズマ肺炎には、ペニシリン系抗菌薬が有効である。
- ガス壊疽の治療において、高圧酸素療法は禁忌である。
解答
正しい記述は、2 です。
解説
- 細菌性髄膜炎は、髄膜炎菌の飛沫感染により発症します。
ただし、細菌性髄膜炎を起こす病原体は髄膜炎菌だけではありません。肺炎球菌、インフルエンザ菌、B群レンサ球菌なども細菌性髄膜炎の起因菌ですが、主な感染経路は飛沫感染です。 - 正しい記述です。レジオネラ症は、エアコンや加湿器などの冷却水で増殖し、散布されたレジオネラ菌を吸引することで感染しますが、ヒトからヒトに感染することはありません。
- 放線菌症ではなく、猩紅熱の記述になっています。猩紅熱の合併症として急性糸球体腎炎があります。
- マイコプラズマは細胞壁がない非定型の細菌です。ペニシリン系の抗菌薬は細胞壁合成を阻害する薬剤であるため、細胞壁がないマイコプラズマには無効です。
- ガス壊疽の原因菌はクロストリジウム属などの嫌気性菌なので、高圧酸素療法が有効です。
ポイント
猩紅熱
- グラム陽性球菌であるA群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)の飛沫感染による感染症です。
- 溶連菌感染による咽頭炎や扁桃炎に全身性の発疹を伴った疾患で、幼児〜学童に好発します。
- 溶連菌が産生する毒素により、全身の皮膚の発赤がおこります。
- 発熱や口囲蒼白、苺舌などの症状もみられます。
- 血清ASO値やASK値の上昇により、溶連菌感染を確認することができます。
- 続発症として急性糸球体腎炎やリウマチ熱があります。
- 治療にはペニシリン系の抗菌薬が使用されます。
A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)
- レンサ球菌(通性嫌気性グラム陽性球菌)は、細胞壁の抗原性(A〜V群)や溶血性の違い(α、β、γ)によって分類されます。
- A群β溶血性レンサ球菌は化膿性レンサ球菌の一種で、溶連菌ともよばれています。
- A群β溶血性レンサ球菌は、咽頭炎、扁桃炎、丹毒、猩紅熱など様々な感染症の原因となります。
- 上気道や皮膚に急性感染症をおこすことが多いですが、発症から数週間後に続発症を合併することもあります。
- 続発症には急性糸球体腎炎やリウマチ熱などがありますが、感染により誘発された免疫反応により生じると考えられています。
ASO、ASK
- いずれも溶連菌産生毒素に対して、体内で産生される抗体です。
- ASOは抗ストレプトリジンO抗体、ASKは抗ストレプトキナーゼ抗体のことです。
- ストレプトリジンOは溶連菌が産生する溶血毒で、赤血球細胞膜を傷害し赤血球の破壊(=溶血)を引き起こします。
- ストレプトキナーゼも溶連菌が産生する外毒素の一つで、血栓溶解作用をもちます。
- 溶連菌に感染するとASO値やASK値の上昇がみられるため、診断に用いられています。
急性糸球体腎炎(AGN)
- 多くは、溶連菌感染後に続発症として発症します。
- 溶連菌感染後に体内で溶連菌に対する抗体が産生され、それが免疫複合体(抗原ー抗体複合体)を形成します。この免疫複合体が糸球体に沈着することで、腎障害(乏尿、血尿、蛋白尿、浮腫、高血圧など)をおこします。
リウマチ熱
- 溶連菌感染後、免疫学的機序により発症する続発症です。
- 溶連菌に対して産生された抗体が、心筋を攻撃することで発症すると考えられています。
- 関節炎や心炎、神経症状、発熱、皮膚症状などがみられます。
- 心臓の炎症を反復すると、数十年後に心臓弁膜症(僧帽弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全など)をおこすことがあります。
細菌性髄膜炎
- 髄膜炎には細菌性と無菌性(多くはウイルス性)がありますが、細菌によるものが細菌性髄膜炎です。
- 細菌性髄膜炎の病原体には、B群レンサ球菌や大腸菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、髄膜炎菌などがありますが、病原体ごとに好発年齢が異なります(以下の表を参照)。
年齢 | 起因菌(番号は多い順) |
---|---|
新生児 | ① B群レンサ球菌、② 大腸菌 |
1〜3ヶ月 | ① B群レンサ球菌、② インフルエンザ菌 |
4ヶ月〜5歳 | ① 肺炎球菌、② インフルエンザ菌、③ 髄膜炎菌 |
6〜49歳 | ① 肺炎球菌、② インフルエンザ菌 |
50歳〜 | ① 肺炎球菌、② B群レンサ球菌 |
- 多くは飛沫感染で感染し、病原体の種類によらず発熱、意識障害、髄膜刺激症状(ケルニッヒ徴候、項部硬直など)がみられます。
- 一般に、細菌性はウイルス性よりも症状が重く、重篤になります。
ガス壊疽
- ガスを産生する菌による創傷感染症(傷口からの感染)です。
- ウェルシュ菌を含むクロストリジウム属(グラム陽性嫌気性有芽胞桿菌)の菌が主な起因菌となります。
- 損傷部位では血流が低下し、低酸素環境となるため、嫌気性菌が増殖しやすくなります。
- 筋肉壊死やガスによる病巣の腫脹、皮膚の黒紫色の変色、浮腫、悪臭のある膿汁(滲出液)の排出などがみられます。
- 進行が速いため、早急な治療(抗生物質、デブリードマン、高圧酸素療法)が必要です。
- デブリードマンとは、壊死した組織を外科的切除する処置です。
- ガス壊疽の原因菌は嫌気性菌なので、高圧酸素療法により殺菌を行います。
レジオネラ症
- グラム陰性桿菌であるレジオネラ菌による呼吸器感染症です。
- レジオネラ菌は河川などの自然界にも生息していますが、温泉や貯水槽、エアコンの冷却水中でも増殖します。
- 菌に汚染された水がエアロゾルとして飛散し、それを吸入することで感染します。
- ヒトからヒトへの感染はありません。
- レジオネラ症の多くは、レジオネラ肺炎をひきおこします(一過性のインフルエンザ症状を示すポアンティック熱型もあります)。
- レジオネラ肺炎では、発熱、咳嗽、比較的徐脈、筋肉痛、全身倦怠感、意識障害、腹痛などがみられます。
- 比較的徐脈とは、発熱の割に脈拍数の増加が少ないものをいいます(通常は発熱時に脈拍は増加)。
- レジオネラ肺炎は進行が速く重症化しやすいので、早急な治療が必要です。
放線菌症
- 口腔内や腸管内の常在菌である放線菌(嫌気性菌)による感染症です。
- 抜歯や口腔手術が誘因となり頸部顔面放線菌症を、誤嚥により胸部放線菌症を、腸管侵入により腹部放線菌症をひきおこします。
- 病巣から皮膚につながる瘻孔が形成されることがあり、そこからドルーゼ(硫黄顆粒)とよばれる菌体の塊を採取できます。
マイコプラズマ肺炎
- マイコプラズマは定型細菌と同様、自己増殖できますが、細胞壁をもたない非定型の細菌です。
- マイコプラズマ肺炎は、Mycoplasma pneumoniae の飛沫感染による感染症です。
- 健常な若者に好発します。
- 頑固な乾性咳嗽や発熱、胸痛などがみられます。
- ペニシリン系やセフェム系など、細胞壁合成阻害作用をもつβ-ラクタム系抗生物質は無効です。
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