今回は、ジフテリア、百日咳、破傷風に関する問題を出題しています。
問題
問1:ジフテリアについて、正しいのはどれか。
- 病原体は、クロストリジウム属の菌である。
- 空気感染により、上気道粘膜に感染する。
- 頬粘膜のコプリック斑が特徴的である。
- 有効なワクチンがない。
- 感染症法では、2類感染症に分類されている。
解答
正しい記述は、5 です。
解説
- ジフテリアの病原体は、グラム陽性通性好気性桿菌であるジフテリア菌です。クロストリジウム属の菌はグラム陽性嫌気性有芽胞桿菌で、破傷風菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌などが含まれます。
- ジフテリアは、飛沫感染により上気道粘膜に感染します。空気感染する感染症は少なく、結核、麻疹、水痘が代表的です。
- 頬粘膜のコプリック斑は、麻疹でみられる特徴的な症状です。ジフテリアでは咽頭粘膜に形成される偽膜が特徴的です。
- ジフテリアは、DPT混合ワクチン(現在はDPT-IPV-Hib五種混合ワクチン)により予防可能です。
- 正しい記述です。ジフテリアはワクチンにより予防可能ですが、発症すると10%近くの人が死亡する致死率の高い疾患です。
問2:百日咳について、正しいのはどれか。
- A群β溶血性連鎖球菌の感染症である。
- 高齢者に好発する。
- 激しい咳嗽と高熱がみられる。
- 呼気時の笛声音が特徴的である。
- 血液検査では、リンパ球の増加が認められる。
解答
正しい記述は、5 です。
解説
- 百日咳はグラム陰性桿菌である百日咳菌による呼吸器感染症です。A群β溶血性レンサ球菌は一般に溶連菌と略され、グラム陽性通性嫌気性球菌です。溶連菌は、猩紅熱や丹毒などを引き起こします。
- 百日咳は小児に好発します。近年は成人での発症も増加してきましたが、高齢者に好発するわけではありません。
- 病名の通り長期間にわたる咳嗽が特徴的ですが、一般的に発熱はみられません。
- 百日咳では、短い咳を連続的に繰り返し(スタッカート)、その後、吸気時に笛声音(wooping)を生じる痙咳発作(けいれん性の咳発作)がみられます。呼気時に笛声音がきかれる疾患として、気管支喘息があります。
- 典型的な血液検査初見として、リンパ球優位(70%以上)の白血球増加があります。ただし、ワクチン接種児や成人では白血球増加やリンパ球増加が顕著でない場合もあります。
問3:破傷風について、正しいのはどれか。
- 破傷風菌の経口感染によりおこる。
- 菌の産生毒素により、弛緩性麻痺がおこる。
- 発症早期に、トリスムスがみられる。
- 治療では、毒素に対する破傷風トキソイドが用いられる。
- 予防接種には、生ワクチンが用いられる。
解答
正しい記述は、3 です。
解説
- 破傷風菌は嫌気性の芽胞形成菌で、芽胞の状態で土壌中など環境中に広く存在しています。破傷風は、創傷部位などから生体内に侵入し、嫌気的環境で発芽、増殖します。経口感染ではなく、経皮感染です。
- 破傷風菌は、テタノスパスミンという神経毒素を産生しますが、この毒素は運動神経を過剰興奮させるため、痙性麻痺(手足が突っ張って動かせない状態)を引き起こします。
- 正しい記述です。トリスムスとは開口障害のことで、破傷風では咬筋が緊張して口を開けられないという症状が出ます。牙関緊急(がかんきんきゅう)ともいいます。破傷風では、症状が顔から下行性に出現するのが特徴で、開口障害は発症初期にみられることが多いです。
- トキソイドは毒素を無毒化したワクチンの一種で、生体へ投与して毒素に対する免疫を作らせます。つまり、破傷風の予防に用いられます。一方、破傷風に感染し、すでに破傷風の毒素が生体内に存在するときは、毒素を中和するために抗破傷風人免疫グロブリンが用いられます。
- 予防接種には、破傷風毒素を無毒化したトキソイドが用いられます。生ワクチンは、病原体の病原性を弱めたもので、ポリオや麻疹、風疹のワクチンなどがあります。
問4:正しいのはどれか。
- 破傷風では、ひきつり笑いがみられる。
- 破傷風では、偽膜形成がみられる。
- 破傷風では、痙攣発作中意識は消失する。
- ジフテリアは、脊髄性小児麻痺ともよばれる。
- ジフテリアでは、後弓反張がみられる。
解答
正しい記述は、1 です。
解説
- 正しい記述です。破傷風の初期症状として開口障害がありますが、これが徐々に強くなると苦笑いするようなひきつり笑い(痙笑)がおこります。
- 偽膜形成はジフテリアでみられます。ジフテリアでは、咽頭粘膜に白血球や血液成分、細菌などからなる白色〜灰白色の偽膜が形成され、大きくなると気道閉塞をおこすこともあります。
- 破傷風では通常意識は保たれており、知覚障害もないため、痙攣発作中は激痛を生じます。
- 脊髄性小児麻痺は、ポリオ(急性灰白髄炎)のことです。ジフテリアでは、発熱や頭痛、嘔吐、咳、呼吸困難などの症状が生じます。
- 後弓反張とは、背筋の痙攣により全身をそり返らせた姿勢をとる現象で、弓なり反張ともよばれます。破傷風の症状が進行するとみられます。
ポイント
ジフテリア(Diphtheria)
- グラム陽性通性好気性桿菌であるジフテリア菌の感染症です。
- 感染症法では、2類感染症に指定されています。
- 感染経路は飛沫感染、接触感染です。
- 特徴的所見として、咽頭粘膜に形成される偽膜があります。
- 偽膜が喉頭に広がり気道を閉塞すると、クループ症状(嗄声、犬吠様咳嗽、吸気性喘鳴)を生じます。
- DPT混合ワクチン(定期接種)で予防可能です。
百日咳(Pertussis, Whooping cough)
- グラム陰性桿菌である百日咳菌による呼吸器感染症です。
- 感染経路は主に飛沫感染です(接触感染もあります)。
- 小児に好発しますが、近年は若年者の発症も増加しています。
- 国内では、DPT混合ワクチンの普及により発症は稀です。
- 1〜2週間の潜伏期を経て、カタル期、痙咳期、回復期と進行します(以下を参照)。
カタル期 | 感染力が最も強い時期で、感冒様症状(風邪症状)が見られるが、通常発熱はない。 |
痙咳期 | 主に夜間に痙咳発作※が出現する。2〜3週間持続する。 ※スタッカートとよばれる短い咳発作とwoopingとよばれる吸気性の笛声音を繰り返すもの。 |
回復期 | 激しい咳が徐々に消失する。 |
※ カタルとは、粘膜の破壊を伴わず、粘膜の腫脹や滲出液がみられる炎症のことです。
※ 感冒とは、かぜ(風邪症候群)のことです。
- 血液所見では、リンパ球の上昇(70%以上)を伴う白血球の増加(15,000/μL以上)が特徴的です。
※ 正常では、リンパ球は白血球の20〜40%を占めます。
※ 白血球の基準値は、4000〜9000/μLです。
破傷風(Tetanus)
- グラム陽性嫌気性有芽胞桿菌であるクロストリジウム属の破傷風菌による感染症です。
- 破傷風菌は芽胞の状態で土壌中など環境中に幅広く存在し、傷口などから体内に侵入します。
- 生体内で発芽、増殖し、破傷風毒素であるテタノスパスミンを産生します。
- テタノスパスミンは神経毒素で、運動神経を過剰興奮させ、筋肉が収縮し続ける状態となります。
- 通常、1週間程度の潜伏期を経て、顔面から全身へ下行性に進行します。
- 症状の違いにより4つの時期に分類されています(以下の表を参照)
第1期 | 開口障害(牙関緊急)が出現する。 |
第2期 | 口輪筋の緊張によりひきつり笑い(痙笑)が出現する。 |
第3期 | 背筋のけいれんにより弓なり反張(後弓反張)がおこる。 痙攣発作は光や音などの刺激によって誘発される。 意識障害や知覚障害がないため、痙攣発作中は激痛を生じる。 |
第4期 | 症状が回復する時期。 |
- 第1期〜第3期までが48時間以内であると、予後が悪くなるとされています。
- 治療では、毒素を中和するために抗破傷風人免疫グロブリンが用いられます。
- 痙攣発作を予防するため、暗く静かな病室への収容が必要です。
- 予防には、破傷風毒素を無毒化した破傷風トキソイドが用いられます。
- 破傷風トキソイドはDPT混合ワクチンに含まれています。
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