今回は、代表的な抗酸菌感染症に関する問題を5問用意しました。
解答・解説の左にある黒い三角をクリックすると、解答・解説がでます。
ポイントに要点をまとめていますので、ポイントを読んでから問題に挑戦しても良いかと思います。
問題
問1:結核について、正しいのはどれか。
- 結核菌は、肺のみに感染し、他臓器には病変はみられない。
- 結核菌に感染した場合は、必ず発症する。
- 結核の検査に、グラム染色がある。
- 肺結核の病変は、肺尖部に好発する。
- 結核の治療として、放射線療法が有効である。
解答
正しい記述は、4 です。
解説
- 結核菌のほとんど(約8割)は肺に感染しますが、腸に感染する腸結核や血行性に全身に広がる粟粒結核などもあります。
- 感染後すぐに発症する一次結核は少なく、不顕性感染となって免疫低下時に発症する二次結核がほとんどです。免疫低下がなければ発症しません。一次結核は、小児や高齢者など免疫が弱い人にみられます。
- 結核菌はグラム染色で染まりにくいため、グラム染色ではなく、抗酸菌の染色法であるチール・ネールゼン染色法が用いられます。
- 結核菌は、偏性好気性菌(酸素がないと増殖できない菌)であるため、酸素濃度の高い肺尖部で増殖しやすいという特徴があります。
- 結核の治療は、耐性菌の出現を防ぐため抗結核薬の多剤併用が基本です。
問2:結核について、正しいのはどれか。
- 結核は、再発することはない。
- 結核には、予防ワクチンがない。
- 潜在性結核感染症では、隔離入院の必要はない。
- 腸結核では、縦走潰瘍がみられる。
- 結核菌が肺内にとどまるものを、粟粒結核という。
解答
正しい記述は、3 です。
解説
問3:結核について、正しいのはどれか。
- 結核は、感染症法では3類感染症に分類される。
- 結核に感染すると、ツベルクリン反応が陰性となる。
- 結核菌は、生体内で肉芽腫を形成する。
- 腸結核は、直腸に好発する。
- 肺結核の特徴的な胸部X線所見として、スリガラス陰影がある。
解答
正しい記述は、3 です。
解説
- 結核は、感染症法で2類感染症に分類されています。
- ツベルクリン反応(ツ反)は、ヒト型結核菌の培養液から精製したタンパク質であるツベルクリンを皮内注射し、48時間後に投与部位の皮膚の発赤や腫脹をみる検査です。結核に感染していれば、発赤や腫脹が出現し、陽性となります。一方、BCG接種歴がある場合や非結核性抗酸菌感染でも陽性になることから、現在ではIGRA検査が用いられている。
- 正しい記述です。肉芽腫とは、微生物などの原因物質をマクロファージなどの炎症細胞が取り囲む病変のことです。結核では、結核菌が好気性菌で増殖に酸素を必要とすることから、炎症細胞が結核菌の感染巣を取り囲み、酸素の供給を阻止します。この時形成される構造が肉芽腫です。
- 腸結核の好発部位は、回盲部(回腸末端〜盲腸)です。鑑別疾患であるクローン病の病変も回盲部に好発します。
- 肺結核の特徴的なX線所見は、空洞病変です。肺結核では肺内に肉芽腫が形成されますが、炎症細胞に取り囲まれた組織が酸素欠乏により壊死し、その部位が空洞病変として観察されます。
問4:ハンセン病について、正しいのはどれか。
- 抗酸菌感染症である。
- 伝染性が高く、致命率が高い疾患である。
- 主に、皮膚、粘膜、中枢神経が侵される。
- らい予防法で規制されている。
- 病型分類や予後の判定には、ツベルクリン反応が用いられる。
解答
正しい記述は、1 です。
解説
- 正しい記述です。ハンセン病の病原体は、抗酸菌であるらい菌です。
- ハンセン病は伝染性は高くなく、致命率も低い疾患です。
- ハンセン病で侵されるのは、主に、皮膚、粘膜、末梢神経です。
- かつては、ハンセン病に関する法律(らい予防法)があり、差別や隔離された歴史がありましたが、現在ではこの法律も廃止されています。
- 問3であったようにツベルクリン反応は結核の検査です。ハンセン病の病型分類などに用いられる検査としてレプロミン反応(光田反応)というものがありますが、現在では行われません。
問5:非結核性抗酸菌症について、正しいのはどれか。
- 約3割が、MACによるものである。
- ほとんどが消化器症状を呈する。
- 中葉舌区型は、中高年女性に好発する。
- 伝染性が強く、進行が速い傾向がある。
- 結核同様、隔離入院させる。
解答
正しい記述は、3 です。
解説
- 非結核性抗酸菌症のほとんど(約8割)は、MAC(Mycobacterium avium-intracellulare complex)によるものです。
- 非結核性抗酸菌症では、咳や痰などの呼吸器症状がみられます。
- 正解の記述です。非結核性抗酸菌症のうち、右肺の中葉や左肺の舌区(右肺の中葉に相当する左肺の上葉の一部)に生じる型は、基礎疾患のない中高年女性に多く、近年増加しています。
- 結核と異なり、人から人には感染しない(伝染性はない)ですし、進行も非常に遅い(数年〜数十年単位)です。
- 上述した通り、人から人への感染性はないので、外来治療が可能です。
ポイント
抗酸菌
- 抗酸菌は、グラム染色では染まりにくく、抗酸菌染色によって染色すると酸によって脱色されにくい菌の総称です。
- 抗酸菌の染色法としては、チール・ネールゼン法や蛍光染色法があります。
- 代表的な抗酸菌は、結核菌、非結核性抗酸菌、らい菌です。
- 結核菌と非結核性抗酸菌は主に肺に感染し、らい菌は皮膚や末梢神経を侵します。
結核
- 抗酸菌である結核菌の感染症で、2類感染症に指定されています。
- 結核の約8割は肺結核で、空気(飛沫核)・飛沫感染により感染します。
- 初感染で発症する一次結核は少なく、多くは潜伏感染していた結核菌が宿主の免疫低下により活動し出す二次結核です。
- リンパ行性、血行性に肺外に進展したものを肺外結核といい、胸膜炎やリンパ節結核、粟粒結核、骨結核、腸結核などがあります。
- 骨結核のうち、特に腰椎に発生したものを脊椎カリエス(結核性脊椎炎)といいます。
- 結核菌は偏性好気性菌であり、酸素濃度が高い肺尖部で増殖しやすいです。
- 結核菌の感染により肉芽腫が形成され、X線所見では空洞病変として観察されます。
- ツベルクリン反応は結核の検査ですが、BCG接種や非結核性抗酸菌症でも陽性となることから、近年はIGRA検査が行われています。
- 治療は耐性菌(抗菌薬が効かない菌)の出現を防ぐため、抗結核薬の多剤併用療法が行われます。
- 予防には、弱毒化したウシ型結核菌であるBCGが用いられます。定期接種に含まれています。
IGRA検査
- IGRAは、interferon-gamma release assay(インターフェロンγ遊離試験)の略称で、「イグラ」と呼ばれています。
- 採血した患者の血液に結核菌特異抗原を加えることにより、血液中のT細胞が放出するIFN -γ(インターフェロンγ)を測定する試験です。
- BCG接種や非結核性抗酸菌感染の影響を受けないので、ツベルクリン反応よりも有用です。
- 測定法の違いにより、QFTとTスポットという2種類の検査に分けられます。
腸結核
- 結核菌が腸に感染したもので、肺結核から続発する続発性のものと、肺結核を伴わない原発性のものに分けられます。
- 近年は、免疫低下患者に発症する原発性の腸結核の方が多くなっています。
- 好発部位は回盲部(回腸末端〜盲腸)で、クローン病の好発部位と同じです。
- 腸結核に特有の症状はなく、下痢、血便などの一般的な消化器症状がみられます。
- 結核菌感染の有無は、肺結核と同様にIGRA検査で調べられます。
- 内視鏡所見として、輪状潰瘍が有名です(鑑別疾患であるクローン病では、縦走潰瘍です)。
- 肺結核同様、抗結核薬の多剤併用療法が行われます。
粟粒結核
- 結核菌が血液に入り、血流にのって大量の結核菌が全身に広がるものをいいます。
- 血流の豊富な臓器(肝臓、骨髄、脾臓、髄膜など)に好発し、粟粒大の結核病変が形成されます。
潜在性結核感染症(LTBI)
- 結核菌に感染しても発病していない状態をいいます。
- LTBIは、Latent TuBerculosis Infection の略称です。
- 発病はしていないため、他の人に感染させるリスクはありません。
- 発病していないものの、将来的な発病を抑制するために治療が検討されます。
- 後天性免疫不全症候群(AIDS)や免疫抑制剤の使用など発病リスクの高い患者などが治療の対象となります。
- 治療は、抗結核薬であるイソニアジドの6ヶ月または9ヶ月投与などが行われます。
ハンセン病
- 抗酸菌であるらい菌による感染症です。
- らい菌の病原性は非常に弱く、感染性も低いです。
- 乳幼児期の菌との頻回な接触(飛沫感染と考えられる)があった際に、長い潜伏期(数年〜数十年)を経て発病することがあります。
- 主な症状は、多彩な皮膚症状と末梢神経障害です。
- かつては、伝染性が強いという誤った認識によりハンセン病に対する法律(「らい予防法」)が制定され、患者は隔離されていましたが、1996年にらい予防法は廃止されています。
非結核性抗酸菌症
- 結核菌、らい菌以外の抗酸菌による感染症の総称です。
- 非結核性抗酸菌症ではMAC症によるものがほとんどで、その多くは肺に感染する肺MAC症です。
- 結核と異なり、人から人への感染性はなく、毒性も高くありません。
- 近年、中葉、舌区に病変がみられる中葉舌区型が増えており、特に基礎疾患のない中高年女性に好発します。
- MAC症では抗結核薬の効果が低く、有効な薬物療法が確立されていませんが、感染性が低いため一般的に外来治療が行われています。
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