今回は、食中毒に関する問題を 3 問用意しました。
各問題の簡単な解説・解答は、左の黒い三角をクリックすると出ます。
より詳細な解説は、ポイントを参照してください。
問題
問1:正しいのはどれか。
- カンピロバクターは、毒素型食中毒を起こす。
- コレラでは、高熱や腹痛を伴う血性下痢が特徴的である。
- 腸チフス・パラチフスは、人畜共通感染症である。
- サルモネラ属菌は、感染型食中毒を起こす。
- 細菌性赤痢では、米のとぎ汁様下痢が特徴的である。
解答
正しい記述は、4 です。
解説
- カンピロバクターは、感染型食中毒を起こします。
- コレラでは、発熱や腹痛を伴いません。また、血性下痢ではなく米のとぎ汁様下痢が特徴的です。
- 腸チフス・パラチフスは、ヒトだけの病気です。
- 正解の記述です。
- 細菌性赤痢では、しぶり腹や膿粘血便などが特徴的な症状です。米のとぎ汁様下痢はコレラでみられます。
問2:正しいのはどれか。
- コレラでは、テネスムスがみられる。
- 腸チフス・パラチフスでは、比較的徐脈、脾腫、バラ疹が三大特徴である。
- ボツリヌス症は、食品の真空保存で予防できる。
- ノロウイルスによる食中毒は、産生毒素エンテロトキシンにより起こる。
- ウェルシュ菌は、好気性菌である。
解答
正しい記述は、2 です。
解説
- テネスムス(しぶり腹)は、細菌性赤痢でみられます。
- 正解の記述です。比較的徐脈、(肝)脾腫、バラ疹は、チフスの3徴といわれます。
- ボツリヌス症の原因菌であるボツリヌス菌は嫌気性菌であるため、むしろ真空保存されている食品が原因となります。
- エンテロトキシンは細菌が産生する腸管毒素の総称であり、ノロウイルスは産生しません。
- ウェルシュ菌は、クロストリジウム属の菌でグラム陽性嫌気性有芽胞桿菌です。
問3:正しいのはどれか。
- コレラの病原体は、グラム陽性球菌である。
- 腸チフス・パラチフスは、病原体に汚染された食品の摂取後、24 時間以内に発症する。
- 細菌性赤痢は、輸入感染症である。
- アメーバ症は、真菌感染症である。
- カンピロバクターは、不完全な加工がされた缶詰、瓶詰めなどの保存食で増殖することが多い。
解答
正しい記述は、3 です。
解説
- コレラの病原体であるコレラ菌は、グラム陰性桿菌です。
- 腸チフス・パラチフスの潜伏期は比較的長く、7〜14日です。潜伏期が短い食中毒には、黄色ブドウ球菌による食中毒があります(潜伏期30分〜6時間)。
- 正解の記述です。
- アメーバ症は真菌ではなく、原虫の一種である赤痢アメーバによる感染症です。
- 不完全な加工がされた缶詰、瓶詰めなどの保存食で増殖しやすいのは、嫌気性菌であるボツリヌス菌などです。カンピロバクターは微好気性菌で、酸素が全くない環境では増殖できず、増殖にはわずかな酸素を必要とします。加熱不十分な鶏肉などが原因となります。
ポイント
細菌性食中毒の分類
細菌性食中毒は、感染型と毒素型に分けられます。
- 感染型は、菌が腸粘膜を直接傷害する感染侵入型と、感染後、腸内で菌が毒素を産生する感染毒素型に分類されます。
- 毒素型は、細菌が食品中で毒素を産生し、それを食べて発症するものです。
感染侵入型 | 細菌性赤痢、サルモネラ属菌、腸管病原性大腸菌、腸管組織侵入性大腸菌、 腸炎エルシニア、カンピロバクター、腸チフス・パラチフスなど |
感染毒素型 | セレウス菌(下痢型)、ウェルシュ菌、腸炎ビブリオ、毒素原性大腸菌、 コレラ、腸管出血性大腸菌など |
毒素型 | 黄色ブドウ球菌、セレウス菌(嘔吐型)、ボツリヌス菌など |
※ 診療情報管理士の認定試験に向けてお勉強中の方へ
診療情報管理士の教科書(2016、第8版)では、感染毒素型を毒素型に含めているようです。
つまり、感染型は感染侵入型で、毒素型に感染毒素型と毒素型が含まれているような記載になっています。
コレラ
- グラム陰性桿菌であるコレラ菌による 3 類感染症です。
- コレラ菌はコッホにより発見されました。
- 日本国内での発症はほとんどなく、東南アジアなどの流行地へ行って感染することが多いです(旅行者下痢症)。
- 腸管内でコレラ菌が毒素を産生し、コレラ毒素により症状が引き起こされます(感染毒素型食中毒)。
- 症状は、米のとぎ汁様下痢やコレラ様顔貌などが特徴的で、発熱や腹痛はありません。
- 米のとぎ汁様下痢は白濁した水様性の下痢をいい、ロタウイルスによる乳児下痢症でもみられます。
- コレラ様顔貌は、眼窩が落ち込み、頬がくぼむ様な表情です。
- 脱水に対する治療が重要で、予防のためのワクチンもあります。
腸チフス・パラチフス
- それぞれ腸チフス菌・パラチフス菌による感染症です。
- 感染症法では、3類感染症に分類されています。
- いずれもサルモネラ属のグラム陰性桿菌です。
- 日本での発症は稀で、輸入感染症(旅行者下痢症)としての発症が多いです。
- ヒトだけに感染するため、ヒトの糞便で汚染された水などが発生源となります。
- 潜伏期が比較的長い(2週間程度)のが特徴です。
- 有名な症状は、比較的徐脈、バラ疹、肝脾腫で、チフスの三徴とよばれます。
- 比較的徐脈とは、発熱の割に脈拍数の増加が少ないものをいいます(通常は発熱時に脈拍は増加)。
- バラ疹とは、小さなバラの花のような紅い斑点がみられる皮疹のことです。性感染症である梅毒でもみられます。
- その他、稽留熱(以下の熱型を参照)などがみられます。
- 血液所見では、急性期に白血球の減少が認められます。
熱型
熱型とは発熱時の特徴的な変動パターンで、以下の4種類があります。
熱型 | 特徴 | 疾患例 |
---|---|---|
稽留熱 | 最低37℃以上で体温が持続的に高く、 日内変動が1℃以内の発熱 | 腸チフス、肺炎など |
弛張熱 | 最低37℃以上で体温が持続的に高く、 日内変動が1℃以上の発熱 | 敗血症、化膿性疾患、 膠原病など |
間欠熱 | 日内変動1℃以上で、低いときには 正常体温まで下がる発熱 | マラリア、 薬物アレルギーなど |
波状熱 | 発熱期と無熱期を不規則に繰り返す | ブルセラ症、ホジキン病 |
サルモネラ感染症
- チフス菌以外の一般的なサルモネラ属の菌による感染症は、人畜共通感染症(ヒトにも家畜にも感染する)です。
- 加熱不十分な食肉や鶏卵、カメなどのペットの糞などが感染源となります。
- 症状は一般的な食中毒の症状(腹痛、嘔吐、下痢など)です。
- 自然治癒するため、治療は対症療法のみです。
細菌性赤痢
- グラム陰性桿菌である赤痢菌による感染症です。
- 感染症法では、3 類感染症に分類されています。
- 赤痢菌は、志賀潔により発見されました。
- しぶり腹(テネスムス)といって、「出そうで出ない」という症状が有名です。
- 少量の膿粘血便(赤い下痢)が出るため、赤痢という病名がつきました。
ボツリヌス食中毒
- ボツリヌス菌は偏性嫌気性菌(酸素がない場所で増殖する菌)であるため、缶詰、瓶詰などの真空パックの食品が原因となります。
- ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素は、運動神経終末からのアセチルコリンの放出を抑制することで筋収縮を阻害し、弛緩性麻痺(脱力)を引き起こします。
- ボツリヌス食中毒では、眼瞼下垂(まぶたが下がる)や嚥下障害など神経症状が出現するのが特徴的です。
- ボツリヌス菌は有芽胞菌(以下を参照)ですが、ボツリヌス菌の芽胞は耐熱性です。一方、毒素は、加熱(80℃で30分か100℃で数分以上)で失活させることができます。
芽胞
- 芽胞は、細菌がいる環境が細菌にとって不都合になった時に菌の中に作られる、熱にも乾燥にも強い耐久性の構造物です。
- 芽胞を形成する菌(有芽胞菌)は多くなく、有名なものにクロストリジウム属の菌があります。
- クロストリジウム属の菌はグラム陽性嫌気性有芽胞桿菌で、ボツリヌス菌、破傷風菌、ウェルシュ菌などが含まれます。
ウイルス性食中毒
- ウイルスによる食中毒の原因では、ノロウイルスとロタウイルスが多くなっています。
- 細菌性食中毒は夏に多いですが、ウイルス性食中毒は冬に多くみられます。
- いずれも、嘔吐、水様性の下痢、腹痛、発熱などの症状がでます。
以下、それぞれのウイルスの特徴です↓
ノロウイルス | 集団感染するため、発生件数が非常に多い。 原因として有名なのが牡蠣などの二枚貝。 |
ロタウイルス | 乳幼児に多く、乳児下痢症の一つ。 ワクチン(定期接種)がある。 |
エンテロトキシン
- エンテロトキシン(enterotoxin)は、細菌が産生し、腸管に作用する毒素の総称です。
- entero- は “ 腸の ” を意味する接頭語で、toxin は “ 毒 ” という意味です。
- 黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンは耐熱性で、食中毒の原因となります。
ウェルシュ菌
- ウェルシュ菌は、土壌中やヒトの腸管内など自然界に幅広く存在している細菌です。
- グラム陽性嫌気性有芽胞桿菌であり、クロストリジウム属の菌です(ポイントの芽胞を参照)。
- 菌が増殖した食品を摂取することにより、腸管内で菌が増殖し、芽胞を形成するときにエンテロトキシンを産生します。
- 腹痛、下痢などの症状がでますが、1〜2日ほどで回復します。
アメーバ症
- 原虫である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の経口感染による食中毒です。
- 輸入感染症としての発症が多いですが、日本国内での感染もみられます。
- 大腸炎を引き起こし、しぶり腹や粘血便などの細菌性赤痢と同様の症状がみられます。
- 腸管外病変として、肝膿瘍があります。
カンピロバクター食中毒
- 日本で発生する細菌性食中毒のうち、発生頻度が高い食中毒です。
- 家畜や野生動物の腸管内に存在するため、加熱不十分な食肉(特に鶏肉)などが原因となります。
- 潜伏期がやや長く(2〜5日)、少ない菌量でも感染が成立するという特徴があります。
- 症状は、他の食中毒と同じような下痢や腹痛などで、1週間ほどで治癒することが多いです。
- 感染から数週間後に、末梢神経障害であるギラン・バレー症候群を起こすことがあります。
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