ウイルス感染症②

4章 感染症

節足動物媒介ウイルス熱及びウイルス性出血熱、皮膚および粘膜病変を特徴とするウイルス感染症から出題しています。

問題

問1:正しいのはどれか。

  1. ウエストナイル熱は、真菌感染症である。
  2. デング熱は、日本での発生は報告されていない。
  3. 黄熱は、日和見感染により発症する。
  4. 痘瘡は、現在増加傾向である。
  5. ラッサ熱の感染は、マストミスが媒介する。
解答

 正しい記述は、5 です。

解説
  1. ウイストナイル熱は、ウエストナイルウイルスによるウイルス感染症です。
  2. デング熱は東南アジアに多い感染症ですが、2014年に国内での感染が報告されています。
  3. 黄熱は、日和見感染ではありません。アフリカ南米などで流行しており、旅行者が罹患することもあります。
  4. 痘瘡(天然痘)はワクチン接種の普及により激減し、1980年にWHOが根絶宣言を出しています。
  5. 正しい記述です。ラッサ熱の病原体ウイルスは、野ネズミの一種であるマストミスが保有しており、尿唾液中にウイルスが排泄されます。それらと接触することによりヒトへ感染し、ヒトからヒトへ感染が広がります。

問2:正しいのはどれか。

  1. 黄熱は、原虫感染症である。
  2. ラッサ熱は、東南アジアに多い。
  3. ウエストナイル熱は、ダニ媒介性疾患である。
  4. デング熱は、1類感染症である。
  5. 黄熱の研究には、野口英世が貢献した。
解答

 正しい記述は、5 です。

解説
  1. 黄熱は、黄熱ウイルスによるウイルス感染症です。
  2. ラッサ熱は、媒介動物であるマストミスが生息する西アフリカが流行地となります。
  3. ウエストナイル熱の病原体はウエストナイルウイルスで、鳥類に保有されています。鳥類の体内で増殖したウイルスがを介して、ヒトへの感染を引き起こします。通常、ヒトからヒトへの直接感染はありません。
  4. デング熱は発症しても1週間程度で自然治癒する疾患で、1類感染症ではありません。によって媒介されるため、4類感染症に分類されています。
  5. 正しい記述です。

問3:正しいのはどれか。

  1. ヘルペスウイルス感染症では、膿疱が形成されることが多い。
  2. 水痘では、不顕性感染が多い。
  3. 帯状疱疹の病原体は、ムンプスウイルスである。
  4. 麻疹には、ワクチンが存在する。
  5. 風疹では、口腔粘膜のコプリック斑が特徴的である。
解答

 正しい記述は、4 です。

解説
  1. ヘルペスウイルス感染症では、水疱が形成されることが多いです。
  2. 水痘では、不顕性感染少ないです。水痘ウイルスに感染すると、約80%が発症します。
  3. 帯状疱疹の病原体は、水痘・帯状疱疹ウイルスで、水痘の病原体と同じです。ムンプスウイルスは、流行性耳下腺炎おたふくかぜ)の病原体です。
  4. 正しい記述です。MR混合ワクチンに含まれており、定期接種です。
  5. 口腔粘膜のコプリック斑は、麻疹でみられる特徴的な症状です。

問4:正しいのはどれか。

  1. 単純ヘルペスウイルス(HSV)は、垂直感染することはない。
  2. 水痘は、空気感染する。
  3. 帯状疱疹は、身体の両側に発症する。
  4. 風疹は、おたふくかぜとよばれる。
  5. 麻疹は、妊娠初期の妊婦が感染することで児の先天性疾患をおこす。
解答

 正しい記述は、2 です。

解説
  1. 単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染経路には、水平感染と垂直感染があります。水平感染は主に接触感染で、垂直感染は主に産道感染です。母親に性器ヘルペスがあると、産道感染により新生児ヘルペスを引き起こし、重症化することがあります。
  2. 正しい記述です。水痘は空気感染の他、飛沫感染、接触感染もあります。感染力が非常に強く小児に好発します。
  3. 帯状疱疹は、通常、身体の片側に発症します。
  4. おたふくかぜは、流行性耳下腺炎ムンプス)のことです。風疹は、三日はしかとよばれます。
  5. 妊婦が麻疹に感染しても、胎児への影響はほとんどないといわれています。ただし、妊娠中に麻疹に感染すると重症化しやすい傾向があるので、注意が必要です。一方、風疹妊娠初期の妊婦が感染することで、児に先天性風疹症候群を引き起こすことがあります。先天性風疹症候群では、先天性心疾患難聴白内障などを伴います。

問5:正しいのはどれか。

  1. 水痘は、はしかと呼ばれる。
  2. 風疹は、不顕性感染はほとんどない。
  3. 尋常性疣贅は、HIVの感染によって起こる。
  4. 帯状疱疹では、激しい神経痛を生じる。
  5. 麻疹の治療薬に、 アシクロビルが用いられる。
解答

 正しい記述は、4 です。

解説
  1. 水痘は、水疱瘡みずぼうそう)と呼ばれます。はしかは、麻疹のことです。
  2. 風疹は、15〜30%程度不顕性感染があります。
  3. 尋常性疣贅は、HPVヒトパピローマウイルス)の感染によって起こります。HIVは、ヒト免疫不全ウイルスのことで、感染により後天性免疫不全症候群を引き起こします。
  4. 正しい記述です。帯状疱疹の病原体である水痘・帯状疱疹ウイルスは、神経節潜伏感染するため、免疫低下による再活性化で皮疹や神経痛様疼痛を引き起こします。
  5. アシクロビルは、単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスに用いられる抗ウイルス薬です。麻疹に有効な治療薬はないため、解熱剤鎮咳去痰薬などの対症療法を行います。

問6:正しいのはどれか。

  1. 水痘は、水痘・帯状疱疹ウイルスが潜伏・持続感染後に再燃した病像である。
  2. 風疹の発疹は、色素沈着を残し治癒する。
  3. 麻疹では、不顕性感染が多い。
  4. 帯状疱疹では、末梢神経の走行と一致して身体の片側性に水疱が出現する。
  5. 単純ヘルペスウイルス感染症には、HPVワクチンが有効である。
解答

 正しい記述は、4 です。

解説
  1. 水痘ではなく、帯状疱疹の記述です。水痘は水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染により発症します。
  2. 風疹の発疹は、色素沈着を残さず数日で治癒します。一方、麻疹の発疹は解熱後、色素沈着となって1〜2週間ほど残り治癒します。
  3. 麻疹では不顕性感染はほとんどなく、感染したら90%以上の人が発症します。
  4. 正しい記述です。水痘・帯状疱疹ウイルスはヘルペスウイルスの一種で、神経節潜伏・持続感染し、宿主の免疫低下などで再活性化して小水疱神経痛様疼痛などを引き起こします。
  5. HPVヒトパピローマウイルスのことで、多くの種類が知られています。種類ごとに引き起こされる疾患は異なりますが、尋常性疣贅尖圭コンジローマ子宮頸癌などの原因となります。HPVワクチンは、子宮頸癌の予防に用いられます。一方、単純ヘルペスウイルス(HSV)は、口唇ヘルペス性器ヘルペスを引き起こしますが、現在、有効なワクチンはありません

ポイント

デング熱

  • デングウイルスをもつ熱帯シマカ吸血されることで感染します。
  • 東南アジアに多いですが、日本でも感染報告があります。
  • 発熱、皮疹、血小板減少が三徴で、通常は1週間程度で自然治癒します。
  • 特に出血傾向ショック症状をきたしたものを、デング出血熱といいます。

西ナイルウイルス感染症

  • ウエストナイルウイルス鳥類の体内で増殖し、それを吸血したがヒトを吸血することで感染します。
  • 不顕性感染が多いですが、発症すると発熱頭痛筋肉痛などがみられなます。
  • 重症化すると脳炎を引き起こしますが、頻度はです。

黄熱

  • 熱帯シマカの媒介による黄熱ウイルスの感染症です。
  • 黄熱の研究には、野口英世が貢献しました。
  • 高熱と肝障害による黄疸がみられ、死亡率が高い疾患です。
  • 治療は対症療法のみですが、予防として弱毒生ワクチンが有効です。

ラッサ熱

  • マストミスという野ネズミの一種を自然宿主とするラッサウイルスの感染で、ヒトからヒトにも感染します。
  • 死亡率が高く1類感染症に指定されています。

ヘルペスウイルス感染症

  • ヒトに感染するヘルペスウイルスは、現在8種類が知られています。
  • ヘルペスウイルスに感染すると治癒した後も体内に潜伏し、宿主の免疫力低下により再活性化します(これを回帰感染といいます)。
  • 以下に、主なヘルペスウイルスと引き起こされる疾患をまとめています。
ヘルペスウイルスの種類疾患
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)主に口唇ヘルペス
単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)主に性器ヘルペス
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)水痘感染)・帯状疱疹回帰感染)
EBウイルス(EBV)伝染性単核球症感染)
サイトメガロウイルス(CMV)巨細胞封入体症、CMV単核症

単純ヘルペスウイルス感染症

  • 単純ヘルペスウイルス(HSV)には、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)と単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)があり、HSV-1は主に口唇ヘルペス、HSV-2は主に性器ヘルペスを引き起こします。
  • HSVは、初感染後に神経節内潜伏感染し免疫低下により再び活性化して、再発を繰り返します。
  • 皮膚粘膜移行部(口唇、陰部)に小水疱を生じますが、数日して治癒します。
  • 治療には、アシクロビルの外用、内服、点滴などが用いられます。

水痘(水疱瘡:みずぼうそう)

  • VZV水痘・帯状疱疹ウイルス)の空気・飛沫・接触感染により発症します。
  • 感染力が強く小児に好発します。
  • 不顕性感染は少なく約80%が発症します。
  • 発熱とともに、体幹を中心に紅斑水疱膿疱痂皮の各段階の発疹が混在してみられます。
  • 予後良好ですが、成人が罹患すると重症化します。
  • 弱毒生ワクチンがあります(定期接種)。

帯状疱疹

  • VZV感染後、ウイルスが神経節潜伏し、宿主の抵抗力低下で発症します。
  • 片側肋間神経や顔面神経、三叉神経の支配領域に沿う神経痛様疼痛が生じ、紅暈を伴う小水疱帯状集簇が出現します。
  • 治療には、アシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬が用いられます。

麻疹(はしか)

  • 麻疹ウイルス空気・飛沫・接触感染による感染症で、生後6ヶ月以降の小児に好発します。
  • 約10日の潜伏期を経て、カタル期、発疹期、回復期の順に進行します。
カタル期上気道感染症状(咳、鼻汁、結膜炎)と一相目の発熱がみられる。
コプリック斑(頬粘膜の白斑)が出現する。
発疹期解熱後、二相目の発熱(39度以上の高熱)が生じ、全身性の発疹が出現する。
回復期解熱し、全身状態が回復する。
色素沈着を残し、発疹が消退する。
  • 特異的な治療法はなく、対症療法が主体となります。
  • 予防として、MR(麻疹・風疹)混合ワクチン(定期接種)があります。

風疹(三日麻疹、三日はしか)

  • 風疹ウイルス飛沫・接触感染による感染症です。
  • 妊婦の子宮内感染は、先天性風疹症候群白内障、心奇形、難聴)の原因となります。
  • 幼児、学童に好発しますが、不顕性感染も多いです(15〜30%)。
  • 症状として、頸部リンパ節腫脹、発熱、発疹(顔面、体幹)がみられますが、発疹は2~3日で消褪します。
  • 特異的な治療法はなく、対症療法が主体となります。
  • 予防として、MR(麻疹・風疹)混合ワクチン(定期接種)があります。

尋常性疣贅

  • 尋常性(vulgaris)とは、「一般的にみられる」という意味で、疣贅(ゆうぜい)は「いぼ」のことです。
  • ヒトパピローマウイルスHPVヒト乳頭腫ウイルス)の感染が原因です。
  • HPVには様々な型があり、型により尖圭コンジローマ(HPV6型、11型)、扁平疣贅(HPV3型、10型)、子宮頸癌(HPV16型、18型)など、様々な病気を引き起こします。
  • 尋常性疣贅はHPV2型57型の関与があり、手や足、顔など露出部イボを形成します。

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