中枢神経系のウイルス感染症について、出題しています。
問題
問1:急性灰白髄炎について、正しいのはどれか。
- ほとんどが不顕性感染である。
- ポリオウイルスの血液感染により発症する。
- 脊髄の後角細胞が障害されやすい。
- 痙性麻痺を起こす。
- 高齢者に多く発症する。
解答
正しい記述は、1 です。
解説
- 正しい記述です。患者の9割以上は症状が出ず、不顕性感染となります。約5%に発熱、全身倦怠感などの感冒様症状のみがみられます。
- ポリオウイルスは主に経口的に感染し、腸の中で増殖します。増殖したポリオウイルスは便中に排泄され、感染源となります。一部、飛沫感染もありますが、主要な感染経路は経口感染です。
- ポリオウイルスは血流にのって脊髄に到達し、脊髄の前角細胞(=運動神経:脊髄から骨格筋に筋収縮の命令を伝える末梢神経)を破壊します(脊髄前角炎)。
- 脊髄の前角細胞(=運動神経)が破壊された結果、筋収縮ができず弛緩性麻痺を引き起こします。
痙性麻痺は、筋緊張が亢進したために起こる運動麻痺です。上位運動ニューロン(錐体路 / 皮質脊髄路)が障害された時などにみられます。 - 5歳以下の小児に多く、脊髄性小児麻痺とも呼ばれます。
問2:正しいのはどれか。
- クロイツフェルト・ヤコブ病は、1類感染症である。
- 亜急性硬化性全脳炎は、結核が原因で発症する。
- 進行性多巣性白質脳症は、ムンプスウイルスの感染症である。
- 狂犬病は中枢神経系の細菌感染症で、発症後は死亡率100%となる。
- 急性灰白髄炎は、一惻下肢の弛緩性運動麻痺をおこす。
解答
正しい記述は、5 です。
解説
- クロイツフェルト・ヤコブ病は、5類感染症に分類されています。
- 亜急性硬化性全脳炎は、結核ではなく、麻疹が原因で発症します。麻疹罹患後、5〜10年の潜伏期を経て発症します。
- 進行性多巣性白質脳症は、JCウイルスの感染症です。ムンプスウイルスの感染症は、流行性耳下腺炎です。
- 狂犬病は、中枢神経系のウイルス感染症です。発症後は死亡率がほぼ100%となります。
- 正しい記述です(問1を参照してください)。
問3:正しいのはどれか。
- クロイツフェルト・ヤコブ病は、スローウイルス感染症である。
- 進行性多巣性白質脳症では、脱髄がみられる。
- 狂犬病の発生は、近年日本において増加傾向である。
- 日本脳炎は、ノミが媒介する。
- ウイルス性髄膜炎は、細菌性よりも重症である。
解答
正しい記述は、2 です。
解説
- クロイツフェルト・ヤコブ病の病原体は異常蛋白であるプリオンです。スローウイルスとは、潜伏期間が長い感染症の病原体(ウイルス)で、遅発性ウイルスともよばれます。代表的なスローウイルス感染症には、麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎や、JCウイルスによる進行性多巣性白質脳症などがあります。
- 正しい記述です。進行性多巣性白質脳症の病原体であるJCウイルスが、中枢神経系で髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトに感染し、破壊します。
- 1956年以降、日本国内での狂犬病の発症はなく、その後は数件の輸入感染症としての報告があるのみです。
- 日本脳炎は、コガタアカイエカという蚊の一種が媒介します。
- 一般にウイルス性髄膜炎は、細菌性髄膜炎よりも軽症で予後良好です。
問4:正しいのはどれか。
- クロイツフェルト・ヤコブ病の特徴的な症状として、恐水症がある。
- 急性灰白髄炎には、ワクチンが存在しない。
- 狂犬病では、脳の海綿状変化が特徴的である。
- 進行性多巣性白質脳症では、感染した脳からネグリ小体が検出される。
- 日本脳炎は予後不良で、後遺症を残すことも多い。
解答
正しい記述は、5 です。
解説
- 恐水症とは、水を飲もうとすると咽頭や喉頭に痛みを伴う痙攣が生じるため、水を恐れるようになる症状で、狂犬病でみられます。クロイツフェルト・ヤコブ病では、進行性の認知症やミオクローヌス(不随意的に起こる筋の突発的な収縮)などがみられます。
- 急性灰白髄炎は、五種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)に含まれています(定期接種)。
- 脳の海綿状変化とは、脳組織がスポンジ状に変化するもので、クロイツフェルト・ヤコブ病でみられます。
- ネグリ小体は、狂犬病に罹患した動物の脳内で認められる構造体です。
- 正解の記述です。多くは不顕性感染ですが、発症した場合の致命率は20〜40%で、生存しても45〜70%に精神障害などの後遺症が残ります。
ポイント
中枢神経系のウイルス感染症
- 今回、出題している中枢神経系のウイルス感染症とその病原体を以下にまとめました(クロイツフェルト・ヤコブ病はウイルス感染症ではないため、以下の表に含めていません)。
疾患 | 病原体 |
---|---|
急性灰白髄炎(ポリオ) | ポリオウイルス |
亜急性硬化性全脳炎(SSPE) | 麻疹ウイルス |
進行性多巣性白質脳症(PML) | JCウイルス |
狂犬病 | 狂犬病ウイルス |
日本脳炎 | 日本脳炎ウイルス |
ウイルス性髄膜炎(無菌性髄膜炎) | コクサッキーウイルスとエコーウイルスが多い。 |
急性灰白髄炎(ポリオ)
- 主に、ポリオウイルスや経口生ワクチンの経口感染による感染症です。
- 2類感染症に分類されています。
- ポリオウイルスは、脊髄の前角細胞(=運動神経)に感染し破壊するため、脊髄前角炎ともよばれます。
- 脊髄から出る末梢の運動神経が障害される結果、四肢の弛緩性麻痺を引き起こします(片惻性であることが多いです)。
- 小児に多く、脊髄性小児麻痺ともよばれます。
- ほとんどが不顕性感染ですが、約4〜8%に感冒様症状(発熱、全身倦怠感など)のみがみられます(ポリオを発症することは非常に稀です)。
- 不活化ワクチンがあり、五種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)に含まれています(2024年現在)。
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
- SSPEは、Subacute Sclerosing PanEncephalitis の略称です。
- 麻疹ウイルスによるスローウイルス(遅発性ウイルス)感染症の一つです。
- 麻疹感染後、5〜10年の潜伏期を経て発症し、その後数ヶ月〜数年の間で進行し、数年〜十数年で死亡します。
- 1歳未満での麻疹への感染や免疫低下時に麻疹に感染した場合に多いです。
- 好発年齢は学童期で、やや男児に多いです。
- 知能低下や運動障害、てんかん、性格変化などがみられます。
- 根本的な治療法は確立されていません。
進行性多巣性白質脳症(PML)
- PMLは、Progressive Multifocal Leukoencephalopathy の略称です。
- 病原体はJCウイルスで、多くの人で無症候性に腎臓に持続感染しています。
- 宿主の免疫不全などでウイルスが再活性化されて、発症すると考えられています。
- 宿主のHIV感染症や悪性腫瘍などが原因となります。
- JCウイルスは髄鞘に感染するため、脳の白質に多発性の脱髄を起こします。
- 有効な治療法はなく、数か月のうちに死亡します。
狂犬病
- 感染動物に噛まれることで、狂犬病ウイルス(Rabies virus)が脳に到達し、神経症状を起こす疾患です。
- 狂犬病ウイルスが体内に入ると、神経細胞に入り込んで増殖し、細胞質にネグリ小体と呼ばれる特有の封入体を形成します。
- 症状として、筋肉のけいれん、自律神経症状、幻覚、嚥下困難、恐水症などがみられます。
- 発症すれば、ほぼ100%死亡します。
- 現在、日本国内での発症はなく、数件の輸入症例のみです。
日本脳炎
- 病原体は日本脳炎ウイルスで、ブタ体内で増殖したウイルスがコガタアカイエカに媒介されることでヒトに感染します。
- ヒトからヒトへの感染はありません。
- 日本では日本脳炎ワクチンの定期接種が行われているため、日本脳炎の発症は稀です。
- 症状として、発熱、頭痛、嘔吐の後、髄膜刺激症状(項部硬直)や、脳炎症状(意識障害、けいれん)などが見られますが、ほとんどが不顕性感染となります。
- 発症した場合、致命率が高く、生存しても後遺症を残すことが多いです。
ウイルス性髄膜炎
- 髄液検査で細菌が認められない無菌性髄膜炎の一つです。
- 無菌性髄膜炎には、薬剤性などウイルス以外の原因も含まれますが、無菌性髄膜炎のほとんどはウイルスが原因です。
- 起因ウイルスはエンテロウイルス属が最多(80%)で、特にコクサッキ―ウイルスとエコーウイルスが多くなっています。その他、ムンプスウイルスなどが原因となります。
- 症状は、発熱、頭痛、嘔吐、髄膜刺激症状(項武硬直、ケルニッヒ徴候)などですが、細菌性よりも軽症であることが多いです。
- 対症療法のみで軽快することが多く、予後良好です。
クロイツフェルト・ヤコブ病
- 異常プリオンタンパクが脳内に蓄積し、脳組織に海綿状(スポンジ状)の変化をきたす致死性の疾患です。
- 5類感染症に分類されています。
- 原因不明の特発性(孤発性)、プリオン蛋白の遺伝子変異による遺伝性(家族性)、他からの感染による獲得性などに分類されます。
- 多くは孤発性で、発症頻度は年間100万人に1人程度です。
- 獲得性では、脳硬膜の移植やBSE※牛の摂取が原因となります。
※牛海綿状脳症(牛のプリオン病) - 症状は3期に分けられ、ふらつきや倦怠感など非特異的症状で発症し(第1期)、その後認知症やミオクローヌスが出現(第2期)、最終的に無動無言状態となります(第3期)。
- 孤発性の進行は速く、感染から1〜2年で死亡します。
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